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第十章
284.破裂寸前な気持ち
しおりを挟む父親は一旦話にピリオドを打とうとしているが、母親は物ともせずに再び話を振った。
「そうね~。ヒントを一つ挙げれば、来年になったら名字も変わってるかも」
「こら! 葉月」
母親は血が繋がっているのに、いつも何を考えてるかわからない。
しかも、先ほどおじさんが言っていた『今はまだ話すべきじゃない』というひと言も妙に引っかかる。
「お母さん、名字が変わるってどーゆー意味なの? 長年慣れ親しんだ一ノ瀬の名字を捨てるの? ……まさか、おじさんと離婚でも考えてるの? 信じられない」
和葉は次々と嫌な想像が巡ってしまい、今にも気持ちが破裂寸前に。
ついに座っていられなくなってしまい、箸をテーブルに叩きつけて半目涙を浮かべたまま、不機嫌な足取りで自分の部屋へ戻って行った。
ダイニングから部屋へと戻った和葉は、ベッドに潜り込んで枕に顔を埋めた。
瞳に溜まっていた涙が次々と枕の中へ染み込んでいく。
お母さんの言ってる意味がわからない。
ただですら拓真の事で頭がいっぱいなのに、更に追い討ちをかけてくる。
お母さんには時間がない?
頭痛や吐き気で寝込むほど体調を崩しているけど、朝から夜まで毎日何処かにほっつき歩いている。
日常的におじさんを放ったらかしだし、繰り返される夫婦喧嘩。
来年は三人で食卓を囲んでない?
名字が変わってる?
それに加えて、お母さんは魔性の女。
私が生まれてから17年間の間にあり得ないほどの離婚と結婚の繰り返しに付き合わされて、現在に至っている。
結果、情緒不安定な子として育ってしまった私は、人一倍愛が必要とするLOVE HUNTERになってしまった。
もしかして、いま浮気でもしてるの?
普段から留守気味だから薄々おかしいなと思っていたけど、浮気をしてるだなんて思ってもみなかった。
しかも、来年は名字が変わるなんて、おじさんと離婚でもするつもり?
家庭を持ったから少しは男遊びが落ち着いたと思っていたのに……。
そんなの自分勝手だし、四度目の離婚なんて絶対反対だし嫌過ぎる。
和葉は四人目の父親とお別れする事を考えたら胸が苦しくなった。
初めて父親と認めた人物が、四人目の父親だった。
毎日『おかえり』と言って暖かい眼差しを向けて、私の帰りを心待ちにしてくれた人。
困っている時にはいつも力になってくれた。
温かい家庭の味を教えてくれた。
母親には勿体ないほど素敵な人だから、もう二度とお別れはないと思っていた。
だから、母親のお気楽な考え方が今回ばかりは許せない。
一方、父親と共にダイニングに残された母親は、和葉がいなくなってからも食事の手を止める事なく一定な表情を保っていた。
「あの子ったら本当にバカね。自分で言っておいて意味がわかってないみたい。天然な性格は一体誰に似たのかしら……」
「葉月。まだその話をするべきではない。和葉はここ数週間ロクに食事も口にしていないのに、機嫌が悪くなって一口程度しか食べないまま部屋へ帰ってしまったじゃないか」
「それは、あの子が勝手に妄想を膨らませて怒っているだけでしょ。それに、どうせいつかはバレるんだからいいじゃない。まぁ、それも全て雅和さん次第だけど」
和葉を心配している父親に対して昨日の喧嘩に尾が引いている母親は、プイッと目線を逸らして不機嫌なまま料理に手をつけた。
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