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第十章
282.バチ
しおりを挟む冬休みに入ってから、カレンダーの日付だけは物凄いスピードで進んで行く。
光が差し込んでいる部屋のカーテンを開けて、窓から朝の空を見上げてみた。
幸せだったあの頃に見た空は透き通った青空だったのに、それがいつしか灰色のように色褪せているように思えた。
実際はそうではないけど、私には空が幸せな色として映し出されなくなっていた。
雨が降った日は、涙の量が多かった日。
……ううん、それは嘘。
本当は毎日土砂降りのように泣いている。
こうやって一日一日と事態の深刻さを深く噛み締めて反省する毎日を過ごしていた。
楽しかったクラブやショッピングにさえ出掛けたくないほど、自分らしさが欠けていた。
バイト以外の日は、部屋という小さな檻の中で静かに毎日を過ごしている。
檻の扉も鍵も開いているから、出ようと思えばいつでも出れる。
しかし、クローゼットの中の服に袖を通したくなくなってしまうほど、身体が外出を拒否していた。
『ボケっとしてないでスマホを貸して。今から俺の携帯番号入れるから』と言って、ストーカー男から救ってくれた後に拓真が携帯番号を教えてくれた。
拓真との思い出の品や写真を持っていないから、こうやって電話帳を開くくらいしか今は繋がる方法はない。
出会ってから二ヶ月間毎日傍にいたのに、思い出の品が一つもないなんて虚しくて泣けてくる。
あ……、一つだけあった。
お婆さんが私用に作ってくれた手作りのモンペ。
でも、モンペは拓真家に置きっ放しだから、やっぱり手元にないや。
部屋の中で気ばかり焦っていた和葉は、少しでも解決の糸口を見つける為に勇気を出して拓真に電話をかけた。
呼び出し音は10……20コールと、耳元で虚しく鳴り響く。
しかし、一向に電話に出てくれず、胸が引き裂かれる思いをする。
まだ拓真の心の傷のかさぶたが完成していないのか、『一度話がしたい』とLINEを送っても既読マークがつかない。
返事が今か今かと思って2分毎に既読マークを確認してしまうほど、心が窮地に追い込まれていた。
本当は彼女がいる相手にこんな事をしてはいけない。
もし私が栞だったら、拓真の気がないと知っていても、女友達から『恋心に偽りはなかった』なんて弁解の電話をかけてきた事を知ったらショックだし、その女が絶対に許せないと思う。
拓真に恋するまで見過ごしていた、過去の私に奪い取られた男の彼女の気持ち。
まだ本物の恋を知る前は、男を奪い取られた方が悪いって思っていたけど、今はそうは思わない。
自分一人でどうにかならない問題だってある。
そして、必ずしも女に非がある訳じゃない。
あの時はまだ未熟だったから、優越感に浸っていただけ。
それに気付くのが遅かったから、今更バチが当たったのかもしれないね。
だから、自分から直接連絡するのは最初で最後にした。
誠意を尽くす機会は未だに訪れないけど、今後起死回生のチャンスが訪れる日は来るのだろうか。
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