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第十章
279.正直嫌い
しおりを挟む私達は今日まで一度も手を繋いでいない。
その間のキスはたったの一度きり。
しかも、キスは自分から強引にしたもの。
あの時は気持ちを無理にでも繋げようとしたけど、勢いがあまって不発弾のようなものになってしまった。
私達の関係は友達止まりなの?
いつになったら心を開いてくれるの?
彼女になってから一ヶ月以上も経つし、幼馴染の関係に終止符を打ったんだよ。
告白したあの日、私が14年分の想いを伝えたから気持ちに応えてくれたんだよね。
イエスの返事をしてくれたという事は、少しはその気があったんだよね。
和葉さんに正々堂々と勝負して勝ったんだよね。
例えいま拓真の目線が和葉さんを追っていたとしても、返事をしてくれた時の気持ちを信じていればいいんだよね。
拓真の気持ちがなかなか向けられず、常に心が不安定になっている栞は、キスをしたあの日以来の勇気を出して、拓真の指先に右手をコツンと当てた。
積極的になり過ぎたくなかったから、今回は手をつないでくれる事を期待して指先を当てて軽く催促。
こうすれば、さすがに手を繋ぎたがっていると気付くだろう。
それと同時に拓真の気持ちも試してみたくなった。
……しかし、手が繋がるどころか拓真はそのまま何事もなかったかのように左手を上げて、髪をくしゃくしゃと乱雑にかき上げた。
その瞬間、手を繋ぎたくないんだと思った。
残された私の右手はひとりぼっちになり、右手に託された願いは無残にも砕け散った。
きっと、手が触れた事は気付いただろう。
さすがの拓真だって、単にぶつかったような衝撃ではないとわかっていたはず。
今日はいつになく不機嫌だから、手を繋ぎたくないのかな。
それとも、まだ恋人としてスタートしきれていないから?
それとも、他に別の理由があるの?
栞は虚しいという言葉では片付けられないほど恋の厳しさを痛感していた。
最終的に行き場を失った栞の右手は、自身のコートのポケットに深く沈めた。
今日も小さな努力は報われない。
少しでも互いの温もりが重なり合えば、この先も頑張れそうな気になったかもしれないのに……。
コートの中に隠れた右手は小さな固い拳となり、下を向いて髪に隠れている瞳には悔し涙がキラリと光った。
そして、誰にも気づかれないような小さなすり傷が再び栞の心に襲いかかった。
私の心の中は傷を隠す為の絆創膏が無数に貼られている。
幸せなふりをしてる私が、心に怪我をしている事を誰にも知られたくないから、小さなプライドを盾にして気丈に振る舞っていた。
拓真を愛している分、ほんの些細な事でも傷付いてしまう。
でも、自分さえ我慢していれば、いつかはきっと苦難を乗り越えられるはず。
もっともっと強くなったら、そこに全ての結果が残されているかもしれないし。
この手で拓真の記憶の中に残っている和葉さんとの思い出を全て消したい。
もし、その夢が叶ったら今日までの苦労はきっと報われるはず。
私は大切なものを沢山持ってる和葉さんが正直嫌いだ。
美人でスタイル抜群で人懐っこくて明るい性格や愛らしい笑顔。
その中でも、素直で正直な性格が一番嫌いだ。
そして、彼女を取り巻く環境も全部全部嫌い。
しかも、拓真と出会ったキッカケが賭け事なんて最低だと思っている。
よりによって、どうして拓真を狙ったのか。
恨めしいし絶対に許せない。
拓真を狙っているうちに恋が本気になったなんて、14年間ひと時も忘れる事なく拓真に想いを寄せている私に対してバカにしているようにしか思えない。
拓真と一年ぶりに再会した時、一度失った笑顔を取り戻すほど変わっていたから、てっきり暴走族に入る以前の拓真に戻ったんじゃないかって思ったりしたけど……。
それが、和葉さん色に染まっている拓真だと思いたくない。
一年間空白だった時間は、一年後の今もそのままであって欲しい。
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