277 / 340
第十章
277.ひとり言
しおりを挟む誠意を尽くす……か。
昼食をとった後、何時間も布団に潜り込んで今後の対策を練っていたけど、父親が導き出した答えには辿りつかなかった。
無視されても強引に身体を引き止めて。
睨まれても黙らぬようにしっかりと目線を合わせて。
怒鳴り散らされても心が折れぬように精神を立て直して。
未熟者の私には、拓真の気持ちなど無視したような手立てしか思い浮かばなかった。
この先も以前のような関係には戻れないとわかっているけど、誠意を尽くし続けていればいつか話を聞く体制が整ってくるんじゃないかと思った。
がむしゃらに我が道を突き進もうとしている自分よりも、長年人生の経験を積んで別の角度から物事を冷静に判断し出来る父親はやっぱり大人だ。
最初は悩みを相談するかどうか迷ったけど、今は思いきって相談して良かった。
ピンチな時にはいつも救世主が現れる。
そして、その救世主に勇気という肥料を与えてもらっている。
本当はひとりぼっちなんかじゃない。
力になってくれる人がいるからこそ、私は強くなれる。
熟成が進んで腐りかけた果実でも、木の根を伝い肥料の栄養が行き届けば、少しでも長く生きようと気力が湧く。
だから、性根が腐りきっている私も今日という日まで何とか持ちこたえられたかもしれない。
「おじさんの言う通り、誠意を尽くせるように頑張ってみようかな」
「無理せず自分のペースで頑張ってごらん。いい結果に結び付くといいね」
和葉はまだ気分が回復した訳じゃないが、父親からの温かい心配りに少しだけ気持ちが上向きになった。
しかし、本番はこれから。
かさぶたが完成してから剥がれていくまでゆっくり時間をかけながら、自分なりの誠意の尽くし方を考えなければならない。
どんなに想いを寄せていても、もう拓真とは恋人になれない。
でも、それでも構わない。
後悔しないように最善を尽くそう。
そして、嘘偽りない気持ちを伝えよう。
和葉の口から悩みを聞き出してほんの少しだけエールを送る事が出来た父親は、和葉の部屋を出るとフッと笑みを浮かべた。
普段は心配しないでと言わんばかりに言葉を濁されてしまっていたけど、今回は最大限の収穫に。
「素直な子に育ったね。16歳の葉月が身ごもった時、『私、この子を絶対産みたい』と断言して、高校を中退して、母親の猛反対を押し切って出産した。どうなるかと心配してたけど、産んでくれた事に感謝しないとね。それに、私もちっぽけな拘りを捨てて、そろそろ人生のスイッチを切り替えなければならないかもしれない」
父親は頭の中に近い将来を思い描き、小さくひとり言を漏らしながら寝室へ向かった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる