LOVE HUNTER

風音

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第十章

277.ひとり言

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  誠意を尽くす……か。

  昼食をとった後、何時間も布団に潜り込んで今後の対策を練っていたけど、父親が導き出した答えには辿りつかなかった。


  無視されても強引に身体を引き止めて。
  睨まれても黙らぬようにしっかりと目線を合わせて。
  怒鳴り散らされても心が折れぬように精神を立て直して。

  未熟者の私には、拓真の気持ちなど無視したような手立てしか思い浮かばなかった。


  この先も以前のような関係には戻れないとわかっているけど、誠意を尽くし続けていればいつか話を聞く体制が整ってくるんじゃないかと思った。



  がむしゃらに我が道を突き進もうとしている自分よりも、長年人生の経験を積んで別の角度から物事を冷静に判断し出来る父親はやっぱり大人だ。



  最初は悩みを相談するかどうか迷ったけど、今は思いきって相談して良かった。

  ピンチな時にはいつも救世主が現れる。
  そして、その救世主に勇気という肥料を与えてもらっている。

  本当はひとりぼっちなんかじゃない。
  力になってくれる人がいるからこそ、私は強くなれる。


  熟成が進んで腐りかけた果実でも、木の根を伝い肥料の栄養が行き届けば、少しでも長く生きようと気力が湧く。
  だから、性根が腐りきっている私も今日という日まで何とか持ちこたえられたかもしれない。



「おじさんの言う通り、誠意を尽くせるように頑張ってみようかな」

「無理せず自分のペースで頑張ってごらん。いい結果に結び付くといいね」




  和葉はまだ気分が回復した訳じゃないが、父親からの温かい心配りに少しだけ気持ちが上向きになった。



  しかし、本番はこれから。
  かさぶたが完成してから剥がれていくまでゆっくり時間をかけながら、自分なりの誠意の尽くし方を考えなければならない。

  どんなに想いを寄せていても、もう拓真とは恋人になれない。
  でも、それでも構わない。
  後悔しないように最善を尽くそう。

  そして、嘘偽りない気持ちを伝えよう。




  和葉の口から悩みを聞き出してほんの少しだけエールを送る事が出来た父親は、和葉の部屋を出るとフッと笑みを浮かべた。

  普段は心配しないでと言わんばかりに言葉を濁されてしまっていたけど、今回は最大限の収穫に。



「素直な子に育ったね。16歳の葉月が身ごもった時、『私、この子を絶対産みたい』と断言して、高校を中退して、母親の猛反対を押し切って出産した。どうなるかと心配してたけど、産んでくれた事に感謝しないとね。それに、私もちっぽけな拘りを捨てて、そろそろ人生のスイッチを切り替えなければならないかもしれない」



  父親は頭の中に近い将来を思い描き、小さくひとり言を漏らしながら寝室へ向かった。

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