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第十章
267.気に食わない敦士
しおりを挟む「えっ、弱みを握る?」
「じゃなきゃおかしいだろ。奴と一年も音信不通だったのに、戻ってきてすぐに告白したら、それまで関係が良好だった和葉を他所に付き合い始めるなんて」
「……あの、失礼じゃないですか? 私は正々堂々と告白に挑みました。それに、何か勘違いしてるみたいですけど、拓真の弱みなんて握ってません」
「まぁ、俺には二人がどんな恋愛をしてきたか知らないけど、あんたは奴の返事をイエスにしちゃうくらい深い絆を持ってるって事ね。それなら、アイツの負けも納得できるわ。じゃあ、これから二人にどんな障害が起こっても関係は揺らぎないんだね」
「あなたには私達の事なんて関係ありません。それに、私は彼を大事にしていますから」
栞は行き過ぎた言動にカチンとくると、炎が燃え盛るような荒立つ感情を覗かせた。
拓真の隣で沈黙を続けていた栞の感情を引き出す事が、敦士の思う壺とは知らぬままに。
しかし、栞は深い絆と言われて少し引っかかる部分があった。
初めて和葉と二人きりで話し合いをした日、ふくらはぎに刻まれた傷跡を見せると、和葉はまるで自分が負った傷跡のようにショックを受けて涙を流していた。
和葉の反応を目の当たりにした瞬間、拓真に寄せる想いが予想以上に大きい事に気付いたから。
事故から一年後、拓真の笑顔を再び蘇らせていた和葉が脅威的な存在に思えた瞬間、怖くなった。
怯えるあまり先手を打つ事を決意。
素知らぬふりをしてのんびり恋愛していたら、和葉に取られてしまいそうな気がしたから。
拓真の返事は予想外だったけど、正々堂々と勝負した結果だと思った。
それなのに、自分達の事などよく知らない敦士が首を突っ込むのは気に食わない。
「ふぅん。じゃあ、あんたは自分が幸せなら和葉との友情ごっこはどうでもいい感じ?」
「あのっ、あなたはさっきから何が言いたいんですか? 揚げ足を取らないでいただけますか? ……はっきり言って不愉快です」
「俺はあんただけが浮かれ気分なのが気に食わないだけ。……あ、ちなみに和葉に頼まれて言ってる訳じゃないから勝手に想像を膨らませないでね」
皮肉を繰り返す敦士は、和葉を想うばかり栞の思い悩みまでは気が行き届かない。
しかし実際の栞は、拓真がいつ自分から離れてしまうかわからないような不安な日々を送っている。
考え方の相違により頭を悩ませながらも、これ以上敦士に誤解を招かぬよう、一歩引いて切実な思いを伝えた。
「私、正直に言うとこの恋は楽勝じゃありません。あなたが思ってるほど毎日幸せ気分ではありませんから」
「さぁ、どうかね。人の心は覗けないから」
栞は何を言ってもすぐに除けられてしまう。
敦士が冷静に話を聞ける体制にならなければ、これから何を言い続けても無駄だと思った。
感情だけがぶつけられて何を言っても伝わらりきらない二人の間には、見えない壁が立ちはだかっている。
「あんたの考えは十分伝わったから、この話はもうおしまい。じゃ、そろそろ教室に戻るわ」
敦士は言いたい事を吐き出して聞きたい事を栞の口から引き出すと、右手をひらひらと振りながら去って行った。
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