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第十章
260.涙で歪んだ先
しおりを挟む私はLOVE HUNTER
狙った男は必ず手に入れたモテ女。
容姿端麗の私に落ちない男なんていない。
生まれつき美しい美貌で、数々の男どもを魅了してきた。
私にとって、男は使い捨てカイロのよう。
冷え切った身体が温まればもうそれで十分だった。
でも、プライドという鋼鉄の仮面を外せば、そこにはもう一人の自分がいる。
男の愛が冷めてしまう瞬間が怖いから、いつも先に別れを告げていた。
本当は人一倍寂しがり屋で臆病者。
幼い頃から愛情が欠乏していた分、愛で満たされる日を待ち望んでいた。
それに気付いたのは拓真に恋してから。
でも、寂しいという理由で鋼鉄の仮面を被ってみても。
他人を演じるのように気持ちを騙そうとしても。
今日まで大きなパワーを与えてもらったから、気持ちを欺く事が出来ない。
だから、私は……。
「ごめんなさい……」
唇が重なり合う二センチ手前で謝った。
触れなかったのは唇と心だけ。
生暖かい息と気配は敦士の唇まで届いていた。
和葉は精一杯の想いを込めて謝ると、熱い涙が一粒こぼれ落ちた。
敦士はゆっくりと顔を離す。
「和葉……」
敦士の瞳には、頬へと流している涙が映し出されていた。
頬に描かれた涙の筋と、顎から滴りそうな涙と、小さく頼りなく震わす肩は今にも崩れてしまいそうなほど。
でも、今回ばかりは手を差し伸べられない。
これが最終的に下した決断だから。
敦士に恋愛感情は生まれなかった理由は、拓真を忘れる事が出来なかったから。
失恋して一ヶ月経っても恋心が健在だ。
恋心は計り知れないほど大きく膨れ上がっていて、全て消え去るまでは想像以上の時間がかかるだろう。
今の関係を保ち続けるなら告白を受け入れるのが正解だった。
敦士の彼女になれば楽しい毎日が約束されてるし、気が楽になるかもしれない。
正直、告白を断った今この瞬間ですら尾を引いている。
でも、これ以上傷付けたくないというのが本音だった。
感情を無理に抑え込もうとすると、更に目元がカッと熱くなり、喉の奥からじわじわと苦しさが込み上げてくる。
フーッと軽く吐いたはずの吐息は、流れる涙を飲み込む勢いで過呼吸のように荒くなっていき、やがて咽び泣きへ。
涙で歪んだ先には、私を純粋に愛してくれる敦士がいる。
いつもは笑顔がくっきりはっきり見えているのに、今は涙が滲んでよく見えない。
だから、いまどんな表情をしているのかわからない。
「あのね、今から大事な話をするから聞いてくれる?」
「もちろん」
敦士はそう言って軽く頷き、私はポケットから出したハンカチで瞳にたっぷり溜まっている涙を染み込ませた。
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