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第九章
242.山田のノロケ話
しおりを挟む今日は日曜日。
13時からアルバイトのシフトが入っている。
どんなに気分が乗らなかったとしても、少人数体制のコンビニバイトは代理の人を探さなければ休みが取れない。
ちなみに金曜日は出勤する気にはなれなかったので、山田とシフトを交代してもらった。
和葉はバイト先のコンビニに到着してから制服に着替えると、レジで待機している山田に挨拶をした。
「おはようございま~す」
「おはようございます。……って、一ノ瀬さん。どうしたんっスか、その顔。目が思いっきり腫れてるじゃないっスか」
「人の事なんて気にしなくていいから。荷物が届いてるんだから、そこに居座ってないで早く荷捌きして。冷凍品は時間が勝負なんだから」
和葉はブスッとしたままおにぎりケースを取り出して、黙々と陳列を始めた。
ところが、和葉の心情など知るはずもない山田は、ドライアイスのように冷たく張り巡らせている空気など読めるはずがない。
「実は僕……、新しい彼女が出来たんですっ」
「えっ? 過去にたった一人しか女と付き合った事のない、あの山田が?」
山田さん → 山田くん → 山田
人生もバイト先でも自分の方が先輩だが、日を追う毎に呼び名がグレードダウンしていく。
最近、扱いが粗末になっていくように思えていた。
しかも、和葉は過去に30人以上の彼氏がいたせいか、上から目線のような言い様に。
「今回でもう二人目になりましたから……」
「以前言っていた例の好きな子? 確か高校時代の友達の妹だっけ」
和葉は無気力な目で反応したが、山田は再び気分が乗り始めて込み上がっていく感情が抑えきれなくなった。
「そうなんですっ! でね、聞いてくださいよ。昨日、デートでネズミーランドに行ったんっスよ~。ジェットコースターに怯える彼女が超かわいくて、僕がしっかり守ってあげなきゃいけないって言うか……。『航ちゃん。私、高い所が昔から苦手なの。でも、航ちゃんが手を握りしめていてくれれば少しは心強いかもしれない』なぁ~んて、可愛い事を素直に言っちゃう子なんです。……僕、彼女と付き合い始めてから喜びと笑いと幸せが止まらないんっス」
途中、彼女のモノマネを取り入れながらマシンガンのように恋の報告を始めた山田の態度に、大人しく黙って聞いていた和葉の動きがピタリと止まった。
彼女をゲットしたばかりで浮かれている山田と。
失恋したばかりで落ち込んでいる和葉。
気持ちに天地の差がある二人の間には、地球が真っ二つに分かれそうなほどの亀裂が入り始めている。
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