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第九章
241.和葉の涙
しおりを挟む和葉は涙で頬を濡らしたままキッと睨みつけた。
「どうして後をついて来たのよ」
「お前の様子がおかしかったから」
「私になんてついて来ないでよ。早く帰って」
「お前泣いてんのに、このまま放っておけるかよ」
拓真は手首に力を加えて引き寄せると、少し怖い顔でそう言った。
すると、和葉は身体が揺れた衝撃によって、頬へと伝っていた涙がポロっと散らばる。
拓真の心配は私にとって恋の媚薬。
追いかけてくるなんて想定外だった。
だけど、今は小さな心配すら受け取る事が出来ない。
何故なら、優しさを素直に受け取ってしまったら、今以上に胸が苦しくなってしまうから。
不器用でも下手くそでもいいから、無理にでも突っぱねないと、自分が壊れてしまいそう。
「……っ、泣いてなんかない! そうやって優しくされたら勘違いしちゃうでしょ。忘れようと思っても忘れられなくなっちゃうでしょ。もう私になんて優しくしないで」
やめてよ……。
もう、苦しいんだよ。
失恋が耐えられないから逃げ出したのに。
私の事なんて放っておいてくれればいいのに、様子を心配して後ろからついて来たりしないでよ。
これ以上苦しめないで。
私に気がないくせに……。
失恋の苦しみと拓真の優しさで感情が入り乱れている和葉は、履いているパンプスのピンヒールの底で拓真のスニーカーを思いっきり踏み潰した。
グッ……
「……ってぇ!」
すると、拓真の足はまるで針が突き刺ささったような衝撃と鈍い痛みが走る。
すぐさま足を押さえてうずくまると、和葉は隙を狙って逃げ出した。
「おいっ、待て……。おいっ……」
拓真はしきりに和葉の背中に向かって叫び続けた。
しかし、和葉は一度も振り向く事なく駅へと走って行く。
こんな逃げ方、荒くて嫌な方法だったけど、こうでもしないと拓真は心配して追いかけて来ると思ったから。
その場に取り残された拓真は、二日間に渡って見せた涙が心に突き刺ささっていく。
何度も何度も悲しそうに流す涙。
和葉の涙は愛情量だと気付いてるが、栞と付き合い始めた以上どうする事も出来ない。
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