LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
239 / 340
第九章

239.あいつ

しおりを挟む



  拓真家の居間で、拓真とおばあさんと私の三人で囲む食卓。

  先週は気分が沈んでいてここに向かう気がせずに無断で農作業を休んだから、三人での食事風景が久しぶりに思えた。

  だけど、以前のように口を開けない。



  一人で場違いな夜遊びの格好のまま若草色の座布団の上に正座。
  農作業に来ていた時とは違って居心地が悪い。

  でも、今日が土曜日で本当に良かった……。



  昨日は拓真にフラれてしまったけど、翌日の今は一緒に食卓を囲んでいる。
  自分でも呆れてどうしよもない。



「せっかく来たんだし、この後農作業して行く?」

「あっ……、うん」



  拓真は小鉢に入っているおかずを箸で突っつきながら、『ちょっと家に寄ってく?』くらいの勢いで農作業を勧めてきた。
  でも、さすがの私だってもう農作業をする意味がない事くらいわかっている。

  しかし、昨晩は深夜に散々迷惑をかけたので、選択肢は一つしかなかった。



「今日、栞ちゃんは何時に来るの?」



  ずばり、いま一番気になっている事を聞いた。
  昨日は告白現場を目撃した事もあって、栞とは顔を合わせたくない。
  気持ちの整理がついていないのに、誇らしげな顔なんて見たくないから。



「あいつ、いま実家に帰ってるから今日は来ないよ」



  あいつ……か。
  栞はもうあいつ呼ばれされる存在なんだ。
  昨日から彼女になったもんね。

  栞が今日来ないのは嬉しいけど、拓真の口からあいつなんて聞きたくなかった。



  マグマのように煮え立つ嫉妬心は、心の中に留めておく事しか出来ない。
  昨日と今日と、拓真と顔を合わせる度に関係に亀裂が入っていくような気がしてならない。



  ーーすると突然、食事を進めている和葉に、何処からか女性の声が耳に入ってきた。



『和葉……。あんたさぁ、LOVE HUNTERなんでしょ』

  ……誰?



  ふと反応して振り返ったり辺りを見回してみたけど、部屋には拓真とお婆さん以外誰もいない。
  しかも、女性の声がはっきり聞こえていたのに、無言で食事を進めている二人には何も聞こえていない様子。



  あれ……。
  いま確かに女性の声がしたはずなんだけど。



  和葉は何の変哲もない様子から空耳と判断して、首を傾げながら再び箸を進める。



『そんなに拓真が欲しいなら奪っちゃいなよ』

  だから、あんたは誰かって聞いてるの!



  和葉は空耳じゃない事に気付くと、心の声を大にして出どころのわからない声に怒鳴りつけた。



『ふふっ、……私?  私は昔の和葉。人の彼氏を奪う事なんて昔は当たり前のように小汚くやってたじゃない』

  ……っ!


『今さら純粋ぶってんじゃないよ。拓真が好きなら栞から奪っちゃいなって』

  ダメだよ。
  拓真を奪えと言われても、今の自分には人の彼氏を奪う事なんて出来ない。


  拓真は昔から栞が好きだったんだよ。
  栞もそう。
  自分の身体が犠牲になっても、加害者の拓真を許して暴走族から更生させてくれたんだよ。

  それに、手に入れようと思っても、なかなか手に入らないものだってある。
  人の気持ちは、決して自分の思い通りにはならないんだよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...