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第九章
236.世界一の想い
しおりを挟む和葉は心に留めていた想いを吐き出してスッキリしたせいか、突然胸ぐらを掴んでいる手が緩んで意識を失うようにスッと拓真の方へ倒れた。
「おっ……、おい! 大丈夫か?」
拓真は咄嗟に身体を支えたが、意識は既に遠退いている。
洋服越しに伝わる体温と共に身体の重みがずっしりと加わった。
一方の和葉は、拓真の香りに包まれて安心してしまったせいか、胸の中でスースーと寝息を立てている。
「寝……てる?」
既に眠りについている事に気付くと、何とも言えぬ感情が込み上げてきて軽い笑みが溢れた。
「バカだな……。言いたい事を散々言った後に寝るなんて」
拓真は和葉をお姫様抱っこをしてスッと立ち上がった。
左胸にはスマホが挟まって歪に膨らんでいる。
和葉の両親に連絡が必要だと思っているが、さすがにブラジャーの中に手を突っ込んで取り出す事が出来ないので、連絡を諦めた。
この時、久しぶりに和葉の顔をじっくり見た。
目の下にはうっすらとクマが出来ている。
赤く染まっている頬以外は血色が悪い。
元々身体が小さくて痩せ細っているのに、先ほど嘔吐した後の身体はとても軽くて頬はゲッソリと痩せこけていた。
失恋の痛手は、暫く離れている間に蓄積されていた疲労が痕跡として残されていた。
拓真は和葉を抱きかかえたまま二階に上がり、一旦自分の部屋のベッドに寝かせると、ファージャケットだけ脱がせて肩まで上掛け布団をかけた。
和葉の瞳から一粒涙が流れ落ちて枕に染み込んでいくと、ふと寝言が溢れる。
「拓真なんて……、もう大嫌い……なんだから。…………でもね、本当は世界一……世界一……」
無意識に呟いていたのは、心の中に留めている想い。
当然、ベッドの横で片膝をついている拓真の耳にも入っていく。
失恋という重圧は、コントロールが効かないほど和葉の胸を締めつけていた。
和葉の瞳から二粒目……、そして三粒目の涙が流れていくと、傷口に消毒液が染みていくように拓真の心へ刺激的に染み込んでいった。
「……俺、お前に一つだけ嘘をついた。ごめん」
拓真は瞼を伏せたまま既に眠っている和葉に向けて謝ると、次々と瞳から流れ落ちていく涙を指先で拭った。
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