LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
229 / 340
第八章

229.押せない発信ボタン

しおりを挟む


  これから誰に電話しようかな……。
  一体、この気持ちを誰に吐き出すのが一番の正解なのかな。


  私の恋心や拓真と栞の関係を知ってる愛莉とか?

  ……ううん、愛莉はダメ。
  もしかしたら、拓真達が交際を始めた事をまだ知らないかもしれないから、私の口からは言えない。

  しかも、恋のライバルの私から聞かされたくない上に、二人一緒に地獄の気分を分かち合いたくないよね。



  あ……、その前に携帯番号知らなかった。
  最近、お互い少しずつ歩み寄るようになったけど、栞が加わってゴタゴタしていたせいか携帯番号を聞くタイミングがなかった。

  中庭に行かなくなるまで毎日のように顔を合わせていたのに、近くにいても案外相手の事を知らないもんだね。



  そうだ!
  敦士を誘って気分転換に二人で飲みに行こうかな。
  お酒でも飲んで思いっきり酔っ払っちゃえば、一瞬だけでも辛い気持ちがえるかもしれない。

  敦士だったら私の恋心に気付いてるから、少しでも元気付けてくれると思うし、『辛い時は傍にいてあげる』って言ってくれたし。
  きっと誰よりも私の気持ちを理解してくれるかもしれない。



  うん、決めた!
  今から敦士と会おう。
  電話帳で敦士の番号を検索……っと。
  あったあった、吉田敦士。

  名前をタップしたから、あとは発信ボタンを押すだけ。

  発信。
  発信……。



  しかし、電話帳になぞった指先は、まるで時が止まってしまったかのように思い止まっている。

  人差し指で一度タップするだけなのに。
  発信ボタンに向けてあと1センチ先に指が向かうだけなのに……。
  ボタンまでのあと少しの距離に心が引き止めている。



  和葉は指先を軽く折り曲げてゆっくり手を引いた。



  ダメ……。
  やっぱり会えない。
  実質フリーだから敦士と二人きりで会っても問題ないけど、ヤケクソ状態で会うのは危険だ。
  お酒を飲んで酔った勢いで一線を越えてしまいそうな気がする。


  寂しさを紛らわす為に男の温もりに包まれていた過去のように、また同じ過ちを繰り返そうとしている。
  もう、二度と過去の自分には戻りたくないと思っているのに……。


  それに、敦士は私を好きでいてくれるから、自分が思うように気持ちを利用してしまう可能性も。

  それに加えて、数時間前拓真の香りに包まれたばかりなのに、他の男の香りを被せてしまってはいけない。
  失恋したけど、今日だけは拓真の香りを身体に残しておきたい。

  だから、電話するのをやめた。



  和葉は再び電話帳一覧に戻り、次は祐宇の携帯番号をタップした。
  最終的に友達を選んだ理由は、拓真と無関係な祐宇と凛の方が素直に甘えられると思ったから。


プルルルル…… プルルルル……プツッ


『あ~、和葉?  こんな時間にどうしたの?』

「祐宇~、いま暇?  ……ねぇ、これから飲みに行かない?」



  和葉は何事もなかったかのように明るく振舞ったが、祐宇は『バイトがあるから』と断る。

  しかし、和葉はしつこく粘り倒すと、祐宇は根負けしてバイトを休んで飲みに行く事を了承した。

  和葉は祐宇の電話を切った直後、次は凛に電話。



「あっ、凛?  今日、祐宇と三人で飲みに行こうよ!  祐宇は来てくれるってさ」



  すると、凛も祐宇と同様『彼氏とデート中だから遊べない』と断る。

  スピーカーから男の声が聞こえていたが、今日はどうしても凛を譲ってもらいたかったので、彼氏に浮気じゃないかと疑われぬように電話を代わって説得を試みた。
  何とか彼氏の了解を得ると、凛は飲みに行く事をOKする。



  二人に飲みに行く約束はしたけど拓真の話をする訳じゃない。
  ただ、今日は一人でいるのが辛いから少しでも気を紛らわせたいだけ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...