LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
228 / 340
第八章

228.心の壁

しおりを挟む



  ーーあれは、去年の9月下旬。
  台風一過で夏の蒸し暑さが思い起こされるような、雲一つない晴天の日だった。
  プチ家出を繰り返していた私が、当時交際していた男の家から登校して遅刻してしまった。

  二時間目の休み時間に到着して、階段を駆け上がっていくと……。



「和葉ってさー、多い時で一か月に三人の彼氏が居たんだよ。ヤバくね?」

「うっわ、軽っ!」

「あの子ってさ、見た目がチャラいけど中身もチャラいんだねー」



  沙優は階段の踊り場で同じクラスの別グループの友達二人に私の暴露話をしていた。



  彼女はきっと私が欠席だと思って、油断していたのだろう。
  私が階段下で聞いていた事も知らずに……。



  沙優の侮辱するような言い様と、かん高い笑い声がやけに響き渡った。
  それは、まるで空から矢が降り注いできたように痛くて苦しい。

  話を聞いていた別のグループの子達も、沙優の悪口に同調した。
  そのせいもあって、沙優は調子に乗る一方。



  耳を澄ませば、私だけが尻軽女とか、男が好きだとか、手の施しようがないほどだらしない女とか好き勝手に言い放題。

  自分だって多数の男と関係を持ちまくっていていたクセに……。




  親友の裏切りは、凍りついた足が砕けそうなほどショックだった。
  今日までバカみたいに信じていたから、交際している男の話をしたのに。
  入学したての春から、何でも言い合えるような親友だと思っていたのに……。


  私の中ではたかが1人の友達ではなくて大切な友達の1人だった。
  幼い頃から愛情不足で育った分、友達の信用が全てだった。

  だから裏切り行為は心底傷付いた。




  でも、その件について本人に問い詰めなかった。
  その理由は、これ以上傷付きたくなかったから。

  悪口を聞かなかったフリを続けて、三学期まで仮面をつけて付き合った。
  顔を見る度に感情の波は襲ってきたけど、後もう少しの辛抱だと自分に言い聞かせて……。



  だから、あの日を境に友達を信用するのはやめて、人に悩みを相談出来ない寂しさを男で紛らわせた。
  その間の悩みは胸の内へ。

  沙優の件があってから、自分から先に壁を作るようになっていた。





  それから、高校に入学してから二度目の春を迎え、二年生に進級。
  クラス替えが行われて祐宇と凛と友達に。

  二人はすぐに打ちとけてくれたし、沙優みたいに裏切ったりはしないと思いつつも、あと一歩が踏み込めない。
  だから、拓真との恋の一部始終も何一つ相談出来ていない。


  この恋が人生を震撼させるほど本気だから、傷付くのが怖くて何を聞かれてもはぐらかしていた。


  でも、人生初の失恋を誰にも明かさず、心に爆弾を抱えながら一人で家にこもっているのはとても辛い。
  ほんの少しでもいいから失恋の苦しみから解放されたいと思っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...