LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
225 / 340
第八章

225.本物の恋

しおりを挟む



  しきりに頬へと流れ行く涙は、指先で一度拭っただけじゃ全て拭いきれない。
  弱々しく身体を震わせている和葉の熱い涙は、溢れんばかりに拓真の指の腹に染み込んでいく。

  しかし、ダメ元でも引き止める覚悟が出来ている和葉の目線は、拓真から外す事はない。



「嘘……。恋愛する時間は沢山あった。拓真に向き合う勇気がなかっただけ」

「向き合う勇気がない……か。お前の言う通りかもしれない」


「いい時も悪い時も、ずっと拓真だけを見続けていたんだよ。わき目も振らずに、一途にあんただけを、あんただけをっ……」



  和葉は意識が遠退きそうなほど興奮状態に陥りヒクヒクと嗚咽を繰り返していたら、とうとう涙で喉が詰まった。
  言いたい事は沢山あるのに、今からどんな言葉を伝えても、もう拓真の心には響かないと半ば諦めにかかっている。



  私……。
  もう、ダメなのかな。
  これ以上想いをぶつけ続けても、拓真と想いが繋がらないままなのかな。

  『好き』っていう、たった二文字の言葉だけじゃ、拓真の胸の奥まで響いていかない。
  今日まで何度も何度も『好き』と伝え続けてきたけど、いつも簡単に跳ね除けられてしまう。



  でも、いま心を引き止める事を諦めたら、拓真の心が完全に栞に向かって行っちゃうよ。
  この先、二度と私との恋の可能性はなくなってしまう。

  そんなの、嫌。
  ずっとずっと傍にいて欲しい。
  私一人だけを見ていて欲しいよ。



  しかし、拓真は駄々をこね続ける和葉に対して、まるで説得を試みるような眼差しで和葉の心を引き剥がし始めた。



「もう、俺を忘れて欲しい」



  無念にも和葉の想いは届かず……。
  死の宣告に近いほどの苦言が言い渡された。



「嫌っ……」



  和葉は首を横に振ると、涙が飛び散ると共に悲鳴混じりの声が漏れた。

  きっと今日ほど辛い日は訪れないだろう。
  だから、17年間の人生の中で初めて我を捨ててしがみついた。



  寝ても起きても、狂ったように拓真が好きで仕方ない私に、『忘れてくれ』だなんて。
  そんな言葉、簡単に口にしないでよ。
  拓真の言う通り、素直に諦める事が出来たら一体どんなに楽なのか。


  私、生まれて初めて本物の恋に辿り着いたんだよ。
  今日まで大事に温めて育ててきた恋心は、簡単に切り捨てられないんだよ。



「お前の気持ちは嬉しかったけど、気持ちに応えてあげれない。だから、お前がキッパリ諦めてくれないと、俺はこの先も傷付けていくだけだから」

「それでもいい。私を傷付けても全然構わない。恋を諦めて後悔するよりも、この先もずっとずっと好きでいたい」



  和葉はほとんど望みのない可能性に賭けて、説得を繰り返しながら拓真と目線を合わせていたが、一度口を塞いでしまった拓真はそれ以上何も語らなかった。



  拓真の香りが手のひらから漂ってきても、二人の心に距離があるから温もりが伝わってこない。
  情けないと思うほど必死にすがりついても、もう完全にダメだと思い始めている。

  認めたくないけど、拓真の香り包まれるのは、きっと今日で最後だろう。

  悔しくて、苦しくて仕方ない。
  でも、これが本物の恋というものなのかな……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...