LOVE HUNTER

風音

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第八章

224.失恋

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  拓真はすんなりと謝罪を受け入れると思っていたのだろうか。
  教室まで迎えに来た時は、どんな気持ちだったのかな。


  悔しい……。
  だけど、栞に勝てないんだよ。

  足に刻まれた傷跡を許した寛大な心。
  そして、非行に走っていた拓真を更正させた多大な力。

  栞は何もかも一歩先を進んでいる。
  だから、私が立ち向かう相手が違うってわかってる。



  今日も明日も明後日も。
  毎日毎日、年中無休で拓真が好きなのに。

  好きな人にはどうして思うように気持ちが伝わらないんだろう。



  告白を受け入れてもらって嬉し涙を流していた栞。
  そして、拓真にフラれて悔し涙を流している私。

  涙の流し方は対照的だけど、二人とも同じくらい拓真が好き。


  ……いや、違う。
  きっと私は栞以上に拓真が好き。



  栞が現れるまで自分だけに向けてくれていた眼差し。
  電車に揺られていた時に風に揺られて頬に触れた髪。
  先生や生徒達が見てる中、大胆に繋いでくれた手。

  そして、愛莉とのいざこざがあって教室まで誤解を解きに来てくれた時の気持ち。



  この全てがこれから栞のものになってしまうと思ったら、失意のどん底に叩きつけられて発狂した。



「いやあぁぁ……。やっぱり、絶対ダメ!  栞ちゃんのところになんて行かないで。これからもずっと和葉の傍に居てよ。世界で一番拓真が好きだからぁぁあ……」



  まるで、この世が終わりを迎えるくらいの勢いで、手で顔を押さえながら泣き崩れた。
  拓真に出会う前の自信に満ち溢れていたあの頃の自分には考えられないくらい恋煩いに苦しんでいる。



「和葉……」

「和葉だって栞ちゃんに負けないくらい拓真を想ってる。本物の恋を教えてくれたのは、先にも後にも拓真しかいないんだよ。拓真だけを見て今日まで頑張ってきたんだよ」



  小さく震える華奢な肩。
  顔を覆う指先にしなだれる髪。
  僅かに漏れる咽び泣く声。


  拓真は崩壊寸前な姿を見て和葉の想いの強さを知らされた。
  同時に胸に突き刺さるような苦しい衝撃が襲いかかる。

  今すぐにでも和葉を抱き止めてあげないと、消えてしまいそうなくらい精神力は弱まっている。



  拓真の両手は思わず和葉の背中の方へ。
  しかし、栞の顔が頭に思い浮かんだ瞬間、思い止まった。

  栞の気持ちに応える事に決めたからには、抱きしめる事が許されない。
  だから、伸ばした両手で顔を押さえる和葉の手を解き、頬に包み込むように添えて流れ落ちる涙を両親指で拭った。



「ごめん。……俺、お前と恋愛する時間がなかった」



  涙で視界が歪んだ先の拓真は、いつになく悲しい瞳をしている。



  拓真は出会った時からツンデレで……。
  私には何故か異様に風当たりが強くて、いつも素っ気なくて。
  所構わず意地悪を言うし生意気だし、年上の私に対してやけに偉そうだし自分勝手。


  それでも嫌いになれなかったのは、私を信じてくれたり、優しく気遣ってくれたり、危険から身を守ってくれた日もあったから。

  白菜の収穫に失敗して怪我を負った日は、バイクを運転して来た事を忘れちゃくらい心配してくれた。



  屋上からの告白が失敗したあの日から比べると、お互い歩み寄る機会がたくさんあって、少なからず私へ対する気持ちに変化はあったはず。

  それなのに、『お前と恋愛する時間がなかった』だなんて、心をゴッソリと奪った後にどうしてそんな意地悪を言うの?


  本当に私が一方的に想ってただけなの?
  今日まで二人で積み重ねてきた日々は、私の一人相撲だったの?
  今日までずっと自分だけが恋愛してきたの?


  拓真の言う事が信じられないよ……。
  理不尽な言い訳なんて聞きたくない。

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