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第八章
221.拓真の返事
しおりを挟む先日ライバル宣言をしたばかりなのに、こんなに早く告白するなんて。
いま告白をした理由は、一刻でも早く拓真に想いを伝えたかったから?
それとも、話し合いの時に私が怖いって言ってたから先手を打ったの?
先日私の気持ちを知ったばかりなのに……。
告白現場を間近で見ていた和葉は、バクバクと叩きつけるような心臓の鼓動が更に早まった。
しかし、長年想いを寄せていた拓真に勇気を振り絞って想いを告げた栞は、きっと自分以上に緊張していたはず。
いま自分が二人の間に割り込めば、栞の告白は白紙になるかな……、なんて軽率な考えしか思い付かないほどパニックに陥っていた。
栞は大人しく返事を待っていたけど、暫く沈黙が続いていた。
一分くらい経過した頃、拓真は沈黙を打ち破った。
「いいよ。付き合おう」
そう言って頭を二回頷かせた瞬間、恋に打ち破れた和葉はショックで意識を失いそうになった。
えっ……、いま何て。
栞が拓真の彼女になるって事?
嘘でしょ……。
和葉は思いもよらぬ返答に顔面蒼白になり、ショックで胸が締め付けられた。
「思いきって伝えて良かった……」
栞は張り詰めていた緊張が解けると、安堵して瞳から涙をポロポロと流して両手で顔を覆った。
拓真は泣いてる栞に優しい眼差しを向けて、肩に軽くポンっと手を置く。
勝者と敗者。
拓真から下された決断は、思いを寄せている二人に明暗を分けた。
拓真の傍で毎日のように気持ちをぶつけていた和葉よりも、一年ぶりに現れた栞の気持ちに応えた拓真。
体育館の物陰に隠れて聞き耳を立てていた和葉がYESの返事を耳にした瞬間、恋は一気に奈落の底へ。
まさか、こんなに簡単に受け入れられてしまうなんて……。
『考えさせて』とか、『返事は後日にするから』とかワンクッションを置く間もなく、1分程度の短い時間で交際を決意した。
やっぱり、栞が忘れられなかったのかな。
てっきり私に気持ちが揺れ動いていたと思っていたのに……。
ワカラナイよ。
拓真の考えてる事が……。
最初は賭け金目的で近付いたけど、会う回数を重ねる毎に関係が良好になって、そう遠くないいつか上手くいくんじゃないかと勝手に期待していた。
地道に努力を重ねてきたのであれば、誰だって成功した姿を夢見るだろう。
だけど、拓真には辛い過去があって、私が知らない頃から心に傷を負っていた。
そして、その過去は現実へと引き戻されていき、私の希望をかき消した。
一年ぶりに拓真の前に現れた栞。
彼女は拓真の好きだった人。
彼女自身も心と身体に傷を負っている。
私が束の間の恋の休息をとっていたところに、栞は心を決めていた。
怖い……。
一瞬にして全てを奪っていく栞が。
結局、拓真に対して捨てるものは沢山あっても、得るものは一つもなかった。
先ほどのYESの返事が私をそう確信させた。
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