220 / 340
第八章
220.栞の告白
しおりを挟む拓真と距離を置いてから11日目。
昼休み、放課後、そして週末の農作業。
あんなに必死に食らいついていた私が、拓真に全く会いに行かなくなった。
でも、拓真は白菜の収穫に失敗して怪我をしたあの日の翌日のように、会いに来たりしない。
やはり私に興味がないのか。
それとも、栞が行く手を阻んでいるのか。
正直なところ、拓真からコンタクトを取ろうとしない理由がわからない。
最近は嵐が過ぎ去ってしまったかのように心穏やかに過ごしていた。
しかし、夢中になれるものが一つもない単調な日々。
辛い日々から逃げ出す事は出来たけど、毎日が隙間だらけに。
でも、今は隙間風が吹き荒れすぎないように敦士が隣でカバーしてくれるから、何となく気持ちのバランスが保てている。
5時間目は体育の授業で、友達と一緒に体育館の更衣室に移動してる最中、前方の人混みの中にいる拓真と栞の二人を見かけた。
拓真を見たのは随分久しぶりの事。
でも、栞が隣に居るから胸が窮屈に締め付けられる。
何日経っても心の傷は癒えない。
しかし、授業が始まる直前にも拘らず、二人は校舎とは別方向に向かっている。
昼休みの残り時間も少ないのに、これからどこへ向かうつもりなのだろうか。
私は二人が一緒にいる姿をこれ以上見たくないから、この場から逃げようと思った。
だけど、栞の横顔が何故か心を引き止めている。
拓真が隣にいるのに楽しそうに見えないどころか、緊張したような面持ちのようにも見えた。
何かが……、変だ。
一度気になったら身体が疼いて仕方ない。
気付いた時には「忘れ物をしたから先に行ってて」と友達に伝えて、一度教室に戻る振りをしてから、スピードを落として後ろから歩き、ところどころ隠れながら二人の後を追った。
ーー嫌な予感がした。
気持ちは相変わらず後ろ向きだけど、栞の変化を見た途端、見逃せなくなった。
拓真達はひと気がない体育館の裏側で足を止めて、身体をゆっくり向き合わせた。
一方、一定の距離を保ちながら後ろをつけていた和葉は、物陰に隠れて聞き耳を立てる。
すると、栞は上目遣いで目線を合わせてモジモジと照れ臭そうに口を開いた。
「あのね。さっきも言ったけど、今から大事な話をするから聞いてくれる?」
「大事な話って、何?」
「……あの……さ。私達、付き合えないかな」
「えっ……」
「私、拓真が好き。幼い頃から今日までずっとずっと……。この想いはもう14年になる。拓真と一年ぶりに再会する前から、ちゃんと気持ちは伝えたいなって思ってたの」
突然拓真に気持ちを伝えた栞は、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
和葉は栞の告白に衝撃を受けると、悲鳴が上がりそうになった口を両手で押さえた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる