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第八章
214.もしかしたら
しおりを挟む先ほど愛莉が手を引いて中庭を離れた時、少し救われたような気がした。
私も愛莉と同じく窮屈に思っていたから。
そして、あの決断が思い悩んでいた私の気持ちを動かした。
愛莉がいない放課後の時間も一緒に帰るのをやめようと思っている。
駅方面へと先行く二人を後ろから眺めながら一人で歩く時間が苦しくてたまらなかったから。
……でも、拓真を諦めた訳じゃない。
今にも破裂しそうな気持ちに休息を与えつつ、傷付かない方法を模索していくつもりだ。
一方、その場に取り残された拓真と栞はだんまりと口を塞いでいた。
中庭に集まっていた三人の間に悪気なく入り込んだ栞と。
愛莉から予想外の言葉を叩きつけられた拓真。
二人は愛莉がそこまで思い詰めていた事を知ると、自然と表情が暗くなった。
「……私、坂月さんに嫌われてるのかな」
「いや、嫌われてなんてない。坂月さんは人を理解するのに少し時間がかかるタイプだから」
「それならいいけど……。さっき怒ってたみたいだったから」
「お互い知り合いになってから間もないし打ち解けていないから、少し隔たりがあるのかもしれない。ゆっくり歩み寄っていけば、きっと理解出来るはず」
拓真は安心させる為にそう言い、肩を二回ポンポンと叩いた。
言葉では宥めつつも、愛莉の考え方にひどく驚いていた。
拓真自身は、昼休みを通じて栞が和葉達と友好が深められればいいなと思っていたから。
栞は拓真の気遣いによって少し気分が晴れると、小さく微笑んで話題を変えた。
「最近、よく笑うようになったね」
「……え、俺? そうかな」
「一時期は笑わなくなって心配してたんだけど……。特に……、一昨日とか」
「え、一昨日?」
「あっ……、ううん。やっぱり何でもない」
拓真はバイク事故を起こしたあの日を境に笑顔を失っていた。
謝罪を受け入れてからも、メガネの奥に閉した心は氷のように固く冷たかった。
しかし、あの事故から一年後の今。
かけていたメガネは外されている上に、笑顔を向けるほど心が回復している。
栞は一昨日、拓真が和葉と楽しそうに笑い合う姿を見て少し焦った。
あの拓真があんなに楽しそうに笑うなんて、一年前には想像もつかなかったから。
そして、もしかしたらという想いが暗い影を落としている。
だからこそ、真実は胸の中にしまっておこうと思った。
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