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第八章
212.怒ってる背中
しおりを挟む「あーっ、拓真。またここに居たんだね。探したよぉ」
栞は先週に引き続き、和葉達の元へ姿を現した。
すると、和葉達の視線は吸い付くように栞へと寄せられる。
栞が拓真の隣に居ないのは、ほんの束の間。
きっと、今日も午前中から付きまとっていたと思われる。
まるで磁石のように……。
面白くない…。
愛莉もきっと同じ気持ちだろう。
唯一、表情に変化がなかったのは拓真だけ。
受け入れ態勢が整っている様子を見ているだけで、胸が引き裂かれそうになる。
栞が三人の元へ到着すると、第一声を届けたのはやはり拓真。
「昼休みはここで過ごすと決めているから」
「じゃあ、私もみんなの中に加わっちゃおっと」
栞は物ともせずに輪の中へ。
和葉と愛莉は思わず顔を見合わせた。
そして、今日も当たり前のように花壇に腰をかける拓真の正面に。
性懲りもなく現れた栞によって、和葉と愛莉の笑顔が同時に消えた。
栞は拓真を解放する気などさらさらない。
昼休みは私と会う事がわかっているから、僅かなひと時でさえ離れようとしない。
一方の私は、今日も会話を奪われると思ったら悔しくて爆発しそうになったけど、唇を強く噛み締めてグッとこらえた。
すると、愛莉は拓真が隣にいるにも拘らず、栞に嫌悪感を露わにしてボソッと小さく呟いた。
「オバさん、……もう行こ」
「えっ……」
愛莉は不機嫌な目つきで花壇から腰を上げると、拓真と栞の間にわざと割って入り、和葉の左手を取った。
恰も当たり前のように割り込んできた栞が気に食わない。
愛莉は自分達の気分が害されてると知らしめる為に、和葉と一緒にこの場から離れようと決意した。
そして、驚いて目を丸くしている和葉の身体を手前に引きつけて、栞を上目遣いで軽く睨んだ。
「藤田さんがこうやって毎回割り込んで来るなら、私達はもう二度と中庭には来ないから。拓真と二人で勝手に仲良くやってればいいじゃん」
「ちょっ……、ちょっと、愛莉。どうしたの?」
「毎回毎回やってらんない! ほら行くよ、オバさん」
愛莉は人が変わったように喧嘩口調でそう伝えると、和葉の手を強引に引っ張って中庭を離れた。
愛莉の背中は怒っていた。
無言でグングン前へ進ませている小さな背中を見てるだけで、気持ちが十分に伝わってくる。
それは、敢えて言葉という形にしなくてもわかるくらいに……。
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