208 / 340
第七章
208.恋のライバル
しおりを挟む「和葉さんは学年が違うのにどうやって拓真と知り合ったんですか? それに、どんなところが好きになんですか?」
私が聞きたい事を全て聞き尽くしたように、栞も知りたい事をぶつけてきた。
空白の一年を過ごしたから、学年が違う私との接点が気になるところだろう。
しかし、その答えは最も耳に入れさせたくない。
親友にも話していないのに、拓真と関係が近い栞に説明しなければならないのだから。
私が口を割れば、二人だけの秘密は今この瞬間に終わる。
けれど、相手のカードを開かせっぱなしにさせたまま逃げるのは許されるはずがない。
世の中、自分中心で回ってるわけじゃないのだから……。
ゴクリと音を立てて唾を飲み、いざ話す覚悟を決めると、それまで重く閉ざしていた口を開いた。
友達と二万円を賭けて拓真を落とそうとしていた事。
アピール作戦がことごとく失敗していたから、全校生徒が集まる校庭に向かって屋上から告白した事。
デートの条件として五回の農作業を約束した事。
拓真が自分を信じていてくれる事。
ストーカー男から助けてもらった事。
農作業で怪我をした時に、拓真のバイクで病院に連れて行ってもらった事。
気付いたら本気に好きになってた事。
ライバルからしたら屈辱的な話かもしれないけど、私は誠意として全てを曝け出した。
栞は一つたりとも聞き逃さないように耳を傾けていた。
さすがに賭け事の話は言い出し辛かったけど、栞自身は最後にこう解釈した。
「賭けは拓真と出会う為のきっかけの一つに過ぎなかったかもしれませんね。最終的には中身を知って恋をしてしまったのだから」
足元をすくうチャンスだったのに、腹を立てる事なく冷静沈着な態度で私の過去と向き合ってくれた。
栞は一つ年下なのにビックリするくらい大人だ。
根は腹立たしく思ってるかもしれないけど、物応じしない態度も、冷静に話を聞く体制も、優劣を浮き彫りにしないところも、すぐにムキになる私とは何もかもが対照的。
だから、余計負けたような気がしてならない。
「私達は恋のライバルです」
「……わかってる」
「本当はこんな事を言いたくないんですけど……。今の拓真をよく知ってる和葉さんが正直怖いです」
「えっ、私が怖い?」
「はい。今の拓真は一年前と比べて随分変わりましたから」
「私にはその変化がわからないや。出会ってからまだ2ヶ月程度だし」
幼馴染の栞は拓真の事を10年以上も知っている事に対して、私はまだ2ヶ月。
だから、拓真の変わりようがわからない。
「ライバルと言っても傷跡を盾にするつもりはありません。私には傷跡以上に重ねてきた10年以上の想いがありますから」
「……っ」
「だから、ライバルとしてお互い汚い手は使わずに、正々堂々と勝負しましょうね」
栞は眉尻を落としてニコッと微笑み、強い意志を向けた。
私は愛情が欠乏して育ったせいで、昔から人一倍不幸な子だと思っていた。
近所の公園に遊びに来る親子ですら、羨ましいと思う反面憎く感じた事がある。
でも、栞の話を聞いたら、不幸を背負っていたのは自分だけじゃないと思い知った。
彼女は度重なる苦境を乗り越えて、前向きに逞しく生きている。
自分は鋼鉄の心臓を持っていると思っていたけど、実際は脆くて儚い。
栞があまりにも強いから、立ち向かっていくのが怖くなった。
私はLOVE HUNTER
ライバルの器の大きさに怯んだ。
想いの強さはさほど変わらないと思うけど、拓真と共に過ごしてきた10年という長い月日は、過去の歴史を塗り替えていた。
これから私に為す術はない。
もう、諦めるべきなのだろうか。
栞のふくらはぎの傷跡を見てから、この先の恋が一気に不透明に。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる