LOVE HUNTER

風音

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第七章

208.恋のライバル

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「和葉さんは学年が違うのにどうやって拓真と知り合ったんですか?  それに、どんなところが好きになんですか?」



  私が聞きたい事を全て聞き尽くしたように、栞も知りたい事をぶつけてきた。
  空白の一年を過ごしたから、学年が違う私との接点が気になるところだろう。



  しかし、その答えは最も耳に入れさせたくない。
  親友にも話していないのに、拓真と関係が近い栞に説明しなければならないのだから。

  私が口を割れば、二人だけの秘密は今この瞬間に終わる。



  けれど、相手のカードを開かせっぱなしにさせたまま逃げるのは許されるはずがない。
  世の中、自分中心で回ってるわけじゃないのだから……。



  ゴクリと音を立てて唾を飲み、いざ話す覚悟を決めると、それまで重く閉ざしていた口を開いた。



  友達と二万円を賭けて拓真を落とそうとしていた事。

  アピール作戦がことごとく失敗していたから、全校生徒が集まる校庭に向かって屋上から告白した事。

  デートの条件として五回の農作業を約束した事。

  拓真が自分を信じていてくれる事。

  ストーカー男から助けてもらった事。

  農作業で怪我をした時に、拓真のバイクで病院に連れて行ってもらった事。

  気付いたら本気に好きになってた事。



  ライバルからしたら屈辱的な話かもしれないけど、私は誠意として全てを曝け出した。



  栞は一つたりとも聞き逃さないように耳を傾けていた。
  さすがに賭け事の話は言い出し辛かったけど、栞自身は最後にこう解釈した。



「賭けは拓真と出会う為のきっかけの一つに過ぎなかったかもしれませんね。最終的には中身を知って恋をしてしまったのだから」



  足元をすくうチャンスだったのに、腹を立てる事なく冷静沈着な態度で私の過去と向き合ってくれた。
  栞は一つ年下なのにビックリするくらい大人だ。


  根は腹立たしく思ってるかもしれないけど、物応じしない態度も、冷静に話を聞く体制も、優劣を浮き彫りにしないところも、すぐにムキになる私とは何もかもが対照的。

  だから、余計負けたような気がしてならない。



「私達は恋のライバルです」

「……わかってる」


「本当はこんな事を言いたくないんですけど……。今の拓真をよく知ってる和葉さんが正直怖いです」

「えっ、私が怖い?」


「はい。今の拓真は一年前と比べて随分変わりましたから」

「私にはその変化がわからないや。出会ってからまだ2ヶ月程度だし」



  幼馴染の栞は拓真の事を10年以上も知っている事に対して、私はまだ2ヶ月。
  だから、拓真の変わりようがわからない。



「ライバルと言っても傷跡を盾にするつもりはありません。私には傷跡以上に重ねてきた10年以上の想いがありますから」

「……っ」


「だから、ライバルとしてお互い汚い手は使わずに、正々堂々と勝負しましょうね」



  栞は眉尻を落としてニコッと微笑み、強い意志を向けた。





  私は愛情が欠乏して育ったせいで、昔から人一倍不幸な子だと思っていた。
  近所の公園に遊びに来る親子ですら、羨ましいと思う反面憎く感じた事がある。

  でも、栞の話を聞いたら、不幸を背負っていたのは自分だけじゃないと思い知った。
  彼女は度重なる苦境を乗り越えて、前向きに逞しく生きている。



  自分は鋼鉄の心臓を持っていると思っていたけど、実際はもろくてはかない。
  栞があまりにも強いから、立ち向かっていくのが怖くなった。





  私はLOVE HUNTER 

  ライバルの器の大きさに怯んだ。
  想いの強さはさほど変わらないと思うけど、拓真と共に過ごしてきた10年という長い月日は、過去の歴史を塗り替えていた。


  これから私に為す術はない。
  もう、諦めるべきなのだろうか。
  栞のふくらはぎの傷跡を見てから、この先の恋が一気に不透明に。

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