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第七章
203.弾まない会話
しおりを挟む「婆ちゃんが一人で四人分の昼メシを作るのは大変だからって、途中で抜けて手伝いに行ったよ」
「えっ……、いつの間に」
「……ってか。お前も女なんだから、少しは女子力を見習えよ」
これが久々の会話なのに、拓真は相変わらずちくりと嫌味を言う。
栞には優しくて私には冷たい。
でも、久々の会話に胸が弾む。
「だって、和葉は拓真と仲良く農作業したいんだもん!」
「そんなのやりたくない言い訳に過ぎないだろ。だから、あんな激マズチャーハンしか作れないんだよな」
「失礼ね! あの時は……、たまたま色々と少しずつ間違えただけでしょ?」
「少しずつ? 味付けから素材の何から何まで違ってたぞ。色が白っぽかったから、てっきりリゾットだと思っていたのに」
「じゃあ、最初からリゾットとして食べてみれば美味しかったかも」
「ちょっと待て、あのまま我慢して食ってたら絶対腹壊してた」
「え、何? 我慢ってどーゆー意味?」
……と、顔を見合わせてムキになっていると、再び畑に足を踏み入れた栞は二人の横からニコニコしながら近寄づいてきた。
「お昼ご飯出来たから母屋に戻ってご飯を食べましょ」
拓真と二人きりになるチャンスが到来しても、また栞。
いつも通り淡々とした口調で割って入る。
だから、会話は途切れる。
久々に拓真と会話が出来て幸せだったのは、栞が不在時の一瞬だけ。
以前は拓真と二人きりだったお昼の時間も、栞が加わった今日からは三人。
今日のお昼ご飯のメニューはカルボナーラ。
お婆さんと途中から台所に入った栞の力作だ。
生卵と絡んだパルメザンチーズがトロ~リととろけるカルボナーラ。
アクセントのニンニクとベーコンと粗挽きコショウの香りが食卓いっぱいに漂う。
具材はベーコン以外に、ほうれん草とエリンギが入っている。
濃厚な味わいのカルボナーラは、口いっぱいにクリーム食感が伝わってものすごく美味しいけど……。
三人の食卓が気まずくて食欲が失せた。
さっきまでは、久しぶりにお腹が空いていたのに。
会話も一切弾まない。
拓真への問いかけは、栞が先にキャッチをする。
そして、いつしか話は違う方向へ流れて私の口は塞がっていく。
栞が来てからずっとそんな感じだったから、拓真との会話はもう諦めた。
また次に二人きりのチャンスがあったら話すとするか。
好みの味ですごく美味しかったけど、カルボナーラを半分以上残してスプーンを置いた。
食欲が失せてしまったから、もうこれ以上食べたくない。
拓真は和葉が普段と違う様子に気付くと、食事していた手を止めた。
「いつも人の分のメシまで食らいつきそうな勢なのに、今日は食欲がないな」
まるで私が食いしん坊のような言い草。
不安な気持ちなんて気づいていない。
栞に気を取られているせいか、恐ろしいほど鈍感だ。
せめて食欲がない原因を察して欲しかった。
ところが、栞は私が口を黙らせている時さえ余計な口を挟む。
「和葉さんって、身体が細いのに食欲旺盛なんですね。意外かも」
「コイツの食いっぷりはガサツだし、まるで男。何でこんなに痩せているか不思議で仕方ない」
「ちょっとー! 何なの?」
栞が加わると拓真の意地悪はより一層拍車がかかる。
いつもの冗談のつもりなのだろうか。
ただですら気分が悪いのに、女としての魅力を激減させるような言動はせめて控えて欲しかった。
一人の女として負けたような気分になるから。
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