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第七章
194.鈍感
しおりを挟む拓真、栞、愛莉の横並び順で中庭へと向かう。
愛莉は二度も三度もしつこく現れる栞が、どうしても気に食わずに呆れ口調で本音を溢した。
愛莉「……あのさ。オバさんは私達二人だけが中庭に来ると思ってるよ」
拓真「栞はまだ知り合いが少ないし、あいつとは何度か顔を合わせたから、きっと理解してくれるよ」
愛莉「拓真ってさ、結構鈍感なんだね」
拓真「……え?」
栞「今から二人で中庭に行くんじゃないの? オバさんって誰? 先生? ひょっとして、私が加わったら迷惑だったかな」
愛莉は拓真に対して小さく呟いただけなのに、栞は横から口を挟んでくる。
それすら面白くない。
だから、これ以上余計な関わりを持ちたくないと思って、腸が煮えくり返りそうな感情を堪えて口を黙らせた。
拓真、愛莉。
そして、間に挟まれるように一緒に中庭へ歩いて来る栞。
この三人がどうして一緒に中庭にやって来るのか、わからなかった。
先に花壇のレンガに腰を下ろして拓真の到着を待っていた和葉は、この三人組の姿を視界に捉えると自然と笑顔が消え行く。
栞に引き離されそうになる度に、拓真に会いたい気持ちが募っていく。
簡単に負けたくない。
だから、私はいつも通りの自分を取り繕った。
「もーっ! 来るのが遅いよ」
昨日、間接的に受け取った父親からの応援は、再び心を奮い立たせるキッカケに。
栞が隣に居たとしても、前々日の農作業の日から拓真とマトモに喋れていないので、今日こそは会話まで繋いでいきたい。
ところが、和葉の大きな期待は瞬く間に泡沫の如く消えてしまう。
「あ! 和葉さん。中庭で待っていたのは和葉さんだったんですね。昨日はどうも」
栞は昨日に引き続き、拓真が口を開く前に先手を打った。
和葉は二日ぶりの会話に期待をしていたからこそ喜ばしくない。
「あ……、はい」
今日も邪魔されて拓真と話せないのかと思うと、非常に悔しく思った。
「坂月さんが、さっき会話の中で『オバさん』って言ってたから、中庭に来てるのはてっきり先生かと思ってました」
「ははっ……、やだな。私、みんなよりも年上だけどオバさんじゃないし」
和葉の愛想笑いは、語尾が小さく消えていくと共に目線は落とされた。
悪気がない事はわかってるけど、勝手につけたあだ名はせめて愛莉だけに留めて欲しかった。
和葉が弱気な表情を伺わせると、愛莉は栞の前で拓真の腕を取ってグイッと引っ張り、和葉の隣に座らせた。
和葉は思わぬ計らいに目を丸くする。
「ほらほら、こんな所でボーッと突っ立ってないで、いつもみたいにおしゃべりしようよ」
「あ……、あぁ」
愛莉は間に栞が入って来ないように、和葉と反対側の隣に座って拓真の隣をキープした。
すると、拓真の隣を占領されて困惑気味な栞は拓真の正面に立った。
背中から日ざしを浴びている栞の影が、愛莉の顔にかかる。
愛莉は存在感も影も鬱陶しさを感じているが、栞を無視するような形でブレザーの内ポケットからスマホを取り出して拓真の得意な話題を振った。
愛莉「最近、Bluetoothのワイヤレススピーカーを買ったんだけどさ、接続方法がよくわからないからやり方を教えてくれる?」
愛莉はスマホを持ったまま拓真に身体を寄せると、和葉に会話に入って来いと言わんばかりに目配せをした。
拓真「えっと、Bluetoothの接続は設定画面から入っていくんだけど……」
和葉「……。(ごめん、愛莉。折角だけど、その難しい話題にはついて行けない)」
愛莉は栞の口を塞ぐ作戦には成功したのだが、同時に和葉の口も塞ぐ羽目に。
単純なミスにより、結局拓真と二人きりの会話になってしまった。
しかし、話に一旦区切りが付いた瞬間、栞は開花のタイミングを迎えた。
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