LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
194 / 340
第七章

194.鈍感

しおりを挟む


  拓真、栞、愛莉の横並び順で中庭へと向かう。
  愛莉は二度も三度もしつこく現れる栞が、どうしても気に食わずに呆れ口調で本音を溢した。



愛莉「……あのさ。オバさんは私達二人だけが中庭に来ると思ってるよ」

拓真「栞はまだ知り合いが少ないし、あいつとは何度か顔を合わせたから、きっと理解してくれるよ」


愛莉「拓真ってさ、結構鈍感なんだね」

拓真「……え?」

栞「今から二人で中庭に行くんじゃないの?  オバさんって誰?  先生?  ひょっとして、私が加わったら迷惑だったかな」



  愛莉は拓真に対して小さく呟いただけなのに、栞は横から口を挟んでくる。
  それすら面白くない。

  だから、これ以上余計な関わりを持ちたくないと思って、腸が煮えくり返りそうな感情を堪えて口を黙らせた。





  拓真、愛莉。
  そして、間に挟まれるように一緒に中庭へ歩いて来る栞。
  この三人がどうして一緒に中庭にやって来るのか、わからなかった。



  先に花壇のレンガに腰を下ろして拓真の到着を待っていた和葉は、この三人組の姿を視界に捉えると自然と笑顔が消え行く。



  栞に引き離されそうになる度に、拓真に会いたい気持ちが募っていく。
  簡単に負けたくない。
  だから、私はいつも通りの自分を取り繕った。



「もーっ!  来るのが遅いよ」



  昨日、間接的に受け取った父親からの応援は、再び心を奮い立たせるキッカケに。

  栞が隣に居たとしても、前々日の農作業の日から拓真とマトモに喋れていないので、今日こそは会話まで繋いでいきたい。



  ところが、和葉の大きな期待は瞬く間に泡沫の如く消えてしまう。



「あ!  和葉さん。中庭で待っていたのは和葉さんだったんですね。昨日はどうも」



  栞は昨日に引き続き、拓真が口を開く前に先手を打った。
  和葉は二日ぶりの会話に期待をしていたからこそ喜ばしくない。



「あ……、はい」



今日も邪魔されて拓真と話せないのかと思うと、非常に悔しく思った。



「坂月さんが、さっき会話の中で『オバさん』って言ってたから、中庭に来てるのはてっきり先生かと思ってました」

「ははっ……、やだな。私、みんなよりも年上だけどオバさんじゃないし」



  和葉の愛想笑いは、語尾が小さく消えていくと共に目線は落とされた。
  悪気がない事はわかってるけど、勝手につけたあだ名はせめて愛莉だけに留めて欲しかった。



  和葉が弱気な表情を伺わせると、愛莉は栞の前で拓真の腕を取ってグイッと引っ張り、和葉の隣に座らせた。

  和葉は思わぬ計らいに目を丸くする。



「ほらほら、こんな所でボーッと突っ立ってないで、いつもみたいにおしゃべりしようよ」

「あ……、あぁ」



  愛莉は間に栞が入って来ないように、和葉と反対側の隣に座って拓真の隣をキープした。

  すると、拓真の隣を占領されて困惑気味な栞は拓真の正面に立った。
  背中から日ざしを浴びている栞の影が、愛莉の顔にかかる。


  愛莉は存在感も影も鬱陶しさを感じているが、栞を無視するような形でブレザーの内ポケットからスマホを取り出して拓真の得意な話題を振った。



愛莉「最近、Bluetoothのワイヤレススピーカーを買ったんだけどさ、接続方法がよくわからないからやり方を教えてくれる?」



  愛莉はスマホを持ったまま拓真に身体を寄せると、和葉に会話に入って来いと言わんばかりに目配せをした。



拓真「えっと、Bluetoothの接続は設定画面から入っていくんだけど……」

和葉「……。(ごめん、愛莉。折角だけど、その難しい話題にはついて行けない)」



  愛莉は栞の口を塞ぐ作戦には成功したのだが、同時に和葉の口も塞ぐ羽目に。
  単純なミスにより、結局拓真と二人きりの会話になってしまった。

  しかし、話に一旦区切りが付いた瞬間、栞は開花のタイミングを迎えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...