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第七章
184.繋いだ手
しおりを挟む自分の不注意で怪我をしたから拓真は全然悪くないのに、昨日から責任感じてたんだ……。
本当は怪我をした時点でライブに行くのを断念するのが正解だったのに、私は自分の事で頭がいっぱいだったから、拓真の気持ちまで行き届かなかった。
こんなにいっぱい心配してくれてたんだね。
そう思ったら、胸がキュッとなった。
「怪我は拓真の責任じゃないよ。……でも、こんなに沢山心配かけちゃってごめんなさい。不機嫌になっちゃうくらい和葉を心配してくれるなら、もう一生夜遊びなんてしないっ。拓真が大好きっっ!」
和葉は心底から心配をしてくれる気持ちを知って胸がいっぱいになると、躊躇なくガバッと両手を広げて正面から抱きついた。
「ちょっと待った! 下駄箱で抱きつくなんて気は確か?」
今は下校時刻という事もあって、付近の人通りが多くて目線を集めている。
だけど、そんな事どうだっていい。
拓真が怪我の心配をしてくれて、自分の意思で教室まで会いに来てくれた。
本当に興味がなかったら、わざわざそんな事しない。
だから、それが本当に嬉しかった。
それに、さっきのひと言ひと言を遡っていったら、敦士にヤキモチを妬いたから不機嫌になったのではないかと信じてやまない自分もいる。
「そんなの気にしないっ! ……ってか、逆にみんなに見て欲しい!」
「アホッ! 少しは周りの目を気にしろっ! ……ほら、もう行くぞ」
そう言って身を解いた拓真はそのまま私の手を取って、現場から逃げるように校門へと走り出した。
風を切り、広い背中を見つめながら、ガッシリと力強く掴まれた手に引かれて人の間を通り抜けていく。
校内で大胆に拓真に抱きついた私だけじゃなくて、人目を気にしないで手を繋ぐ拓真も大胆。
だって、私達二人を見てるのは付近にいる生徒達だけじゃない。
校舎内を歩いている先生だって、学年の違う私達二人を見ているのだから。
指をさして噂をしている人がいる。
口笛を吹いて冷やかしている人もいる。
だけど、拓真は繋いだ手を離さない。
一度目はお願いして手を繋がせてもらったけど、二度目に繋いでくれたのは拓真の方。
一つに繋がった温もりは、忘れられないほど暖かくて柔らかい。
出会った当初は、お互いの距離がこんなにも近づくなんて思いもしなかった。
私達は賭けがキッカケで知り合ったけど、いつしか本物の恋に。
そして、一つ一つ拓真という人を知っていくうちに、恋は後戻り出来なくなった。
でも、恋愛は一人じゃ出来ない。
思い悩んだり、窮屈な時間もたくさん過ごした。
いい事も、嫌な事も、辛い事もたくさんあったけど……。
全てをひっくるめて受け入れられるほど拓真が好き。
そして、彼も自身のペースで歩み寄って来てくれたから、この恋愛に手ごたえを感じていた。
手を繋いで校内を駆け抜けた大胆な行動は、幸せの絶頂期を迎えて幸せに浸っている私をそう確信させていた。
ーーそう。
私が最も恐れていたあの運命の瞬間を迎えるまでは……。
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