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第六章
177.まるで別人の敦士
しおりを挟む最寄り駅で拓真と別れてから、今朝ロッカーにしまっておいた服を取り出して、トイレの個室で着替えた。
ライブ会場の駅までは電車移動。
ウィンドウショッピングを軽く楽しんだ後、祐宇達と合流した。
二人も高校生とは思えないくらい大人っぽい服装をしている。
ちなみに、今日の服装は黒のオフショルダーのニットのミニワンピに、シルバーの15センチのピンヒールの靴。
「今日は久々に三人で遊ぶね! 和葉ったら、最近付き合い悪いんだもん」
「ごめ~ん、最近色々忙しくてさ。今日は嫌な事を忘れてパーっと楽しもう」
「ライブ会場にイケメンいるかな~?」
春以来のライブに期待に胸を踊らす。
久々の夜遊びに気合いが入っていた。
LOVE HUNTERの私達は、今日もナンパを素通りしてライブ会場へ向かう。
ワンドリンク付きのチケットを持って、カウンターで迷わずカクテルを注文。
ライブが始まるまでお酒を楽しんだ。
午前中に救急病院に行ったりして疲労が蓄積していたから、あっさりと酔いが回った。
「ねぇ、ロン毛の彼のステージは何番目なの?」
「敦士のグループは3番目みたい」
「じゃあ、順番はまだまだだね」
最初に準備していたバンドの演奏が始まると共に、私達はバーカウンターを離れてステージの前方に移動した。
ステージの両サイドに設置されている巨大スピーカーからは、大音量のシャワーが降り注いでいる。
先頭の列の人達は、出演しているバンドのグループの友達か知り合い。
若しくはこのグループのファンなのかな?
演奏と共に前のめりになって、熱狂的に首や腕を振り上げて盛り上がりを見せている。
最初は非日常的な爆音で鼓膜がおかしくなりそうだったけど、時間と共に慣れてきた。
会場の雰囲気が一体化しているせいか、別にこのグループのファンじゃなくてもリズムに乗ろうとしているのか、自然と身体が疼いてしまう。
「何度見ても生ライブってサイコー!」
祐宇はキラキラと目を輝かせながら、隣から叫んだ。
彼女は根っからのバンド好きなので、誘われて一緒にライブ会場へ足を運んだ事が何度かあった。
会場の雰囲気に包まれて夢中になっていると、あっと言う間に敦士のグループの順番に。
一つ前のグループが片付けに入ると、袖幕から敦士のグループはやって来た。
メンバーがそれぞれの立ち位置に着くと、軽くチューニングを始めて開始時刻まで各々準備に取り掛かった。
この時、初めて敦士の私服姿を目にした。
今日は普段後ろでひとまとめにしている髪を下ろしていたから、幕から登場した時はすぐに見つけられなかった。
肩までの長さでざっくりとレイヤーが入った髪の上には、黒い中折れのソフトハットを被っている。
黒の細身のブレザーの袖を捲って黒のスキニースタイルにロックTシャツ。
首元には十字架のシルバーアクセがぶら下がっている。
普段の制服姿とはまるで別人のよう。
メンバーの顔に見覚えがないから、学校外の友達かな。
敦士のグループは、ドラム、ベース、ボーカルと、ギターが二人の五人組。
みな目元に軽く化粧をしている。
開始時刻になって演奏が始まると、祐宇は私達二人の手を引いて前方へ移動して、ぎゅうぎゅう詰めになっている人混みに紛れた。
肘の傷口がまだ痛むから、服の上から手でカバーをする。
巨大スピーカーから音楽が流れると、あっという間に身体中に振動を与える。
観客側の照明は落とされていて真っ暗に。
ステージ上にはパッと数えきれないくらいのスポットライトが当てられている。
観客側からはメンバーの顔はよく見えるけど、きっとステージ上からは影になってよく見えないだろう。
だから、私がこの会場へ来ている事すら知らないと思う。
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