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第六章
173.鈍い痛み
しおりを挟む「白菜は表土と平行に刃物を入れてカットする。いま手本を見せるからちゃんと見てて」
和葉は白菜を片手で支えて右手で根元に刃物を入れる拓真の袖捲りしている逞しい右腕にうっとり見惚れていた。
前腕屈筋群の筋が程良く浮き上がっている。
やっぱり美しい筋肉って最高。
はぁ……。
その筋肉質な腕で力強くギューっと抱きしめてくれないかな。
和葉はヨダレが垂れそうなほどだらしない表情で空返事をしていると、拓真は妙な視線に気付いた。
「さっきから人の話を聞いてる?」
「きっ……聞いてる、聞いてる! でもちょっと難しそうだから、拓真が切った白菜を隣で受け取るよ」
「よし、そうするか」
毎週作業を繰り返しているうちに互いの息もピッタリに。
提案を受け入れてくれると頼りにしてもらえたようで嬉しい。
拓真は収穫した白菜を和葉に渡してプラスチックケースに入れるのを確認してから、次の白菜を収穫していた。
手際が悪いペースに合わせているので、少し遅れをとっている。
隣で収穫作業を見ている和葉は、力強くスパンスパンと白菜をカットしている姿がとても気持ちよさそうに見えた。
先ほど断ってしまったが、見ているうちに興味が湧いていく。
「やっぱり和葉も収穫してみたい」
「白菜はちょっと重いけど平気?」
「身体は小さくても結構力持ちだから任せて」
「随分逞しくなったな」
和葉は袖を捲ると拓真から刃物を受け取った。
しゃがんでから白菜を掴んで、拓真のように真似てみるが、結構な力を加えなければならない大変な作業だ。
「白菜の支え方はいいけど、刃物はもうちょっと下」
「うん……。この辺かな?」
「そう。そこで思いっきり力を加えて根元をカットして」
「うん、頑張ってみる」
白菜の芯が思ったより固かったので、刃物を持つ手にググッと力を入れた。
すると、刃物は芯の中央部分まで行き届く。
あともう少し力を加えれば根元は完全に切り終えると思って、一気に力を加えた。
すると……。
ザクッ……
刃物が貫通した音と共に、勢い余って白菜を支えていた左肘にそのまま直撃。
袖をまくっていた肘からジワリと血が滲み出てくる。
その瞬間、和葉の身体から一気に血の気が引いた。
「うそ……」
混乱状態のまま後ろにペタンと尻もちをついた。
次第に鈍い痛みが増してくると、怖くなって身体がガタガタと震え出した。
「バカ! 何やってるんだ!」
拓真は声がひっくり返りそうなほど怒鳴った後、首に巻いている手ぬぐいを取ってから傷口にグルグルに巻き付けて、応急処置の止血を行った。
和葉はショックを受けつつも隣に目をやると、拓真は顔面蒼白のまま処置を行なっている。
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