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第六章
172.嘘
しおりを挟む今日は六回目の農作業の日。
大事なスケジュールを忘れさえしなければ、拓真とデートの日だった。
トホホ……。
農作業があるから仕方ないなと思う一方で、うまく口車に乗せられてしまったような気になって諦めきれない自分もいる。
でも、まぁ……。
毎週の農作業がデートの代わりになってるのかもしれないね。
一緒に農作業して、一緒にランチして、駅まで送ってもらって。
農作業デートならたった一度きりじゃなくてもいいんだもんね。
毎週好きな分だけ拓真と一緒に居られるんだもんね。
毎週末だけは、ずっとずっと柵の中なんだもんね。
今日の農作業が終わったら、夕方から祐宇達と待ち合わせをして、敦士が出演するライブハウスに行く予定。
だから、今日は身も心もハードスケジュール。
でも、メインはやっぱり拓真と一緒に過ごす事!
拓真家に到着して、いつものように着替えてから畑に出ると、先に畑の前で待っていた拓真に今日の指示が出された。
「先日お前が言ってた通り白菜の収穫をしよう。結構な数の白菜が収穫できるから、帰りに持って帰っていいよ」
予想外の配慮に気が重くなった。
残念ながら、ライブに白菜は持っていけない。
「あっ……あのね。白菜なら今うちに二玉あるから要らないの」
「えっ、一般家庭に白菜二玉あるなんて珍しいね」
「あのっ……いや、おっおじさんが漬け物をするからって、か……買ったみたいで」
「ふーん。白菜を家で漬けるなんて結構マメな父親なんだね」
結果、嘘をついてしまった。
今日はライブ用の派手な私服を駅のロッカーに突っ込んで来た。
夕方駅に戻ったらトイレで着替えるつもりだ。
駅で着替えた後の私服と共に自家製白菜をコインロッカーに入れたくなかったから、嘘をつく他なかった。
でも、本当は自宅に白菜があるかどうかすら知らない。
飲み物を取り出す時以外は冷蔵庫を開けないから。
多分、うちの中でおじさんしか野菜室を開けない。
うちのダメ女二人はほとんど台所に近寄らないから。
私だって嘘をつくのは辛い。
だけど、せっかくのご好意を丁重にお断りするにはこうする他なかった。
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