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第六章
162.五回目の農作業
しおりを挟む今日は五回目の農作業の日。
10月も終わりに近付いてとくると、朝の空気が冷たくて上着が手放せなくなってきた。
電車の車窓から差し込む乾燥した風が、短い髪をゆらりとなびかせている。
昨日、拓真との約束をすっぽかしてしまった。
謝ろうと思ってSNSメッセージを送ろうかどうか散々迷ったけど、返事は送らないって言ってたし、今日直接謝った方が効果的かなと思って連絡しなかった。
和葉は気をもんだまま電車を乗り継いで拓真の家に向かう。
玄関のインターフォンを押す指先が、緊張のあまり震えている。
ピンポーン……
玄関先に出てきたのは先週風邪を引いていたお婆さんではなくて、謝罪をしなければならない拓真の方。
「あっ、あの……。昨日は一緒に帰れなくてごめんなさい」
目を合わせる事が出来なかった。
だけど、荷物を前に持ちながら精一杯の気持ちを込めて深々と頭を下げた。
ところが、拓真は顔色一つ変えない。
私を責めるどころか、何事もなかったかのように振る舞う。
「別にいいよ。それより、婆ちゃんの風邪が治ってすっかり元気になったから、今日昼メシは作らなくていいから」
それは、非常にあっさりした返答だった。
昨日一緒に帰らなかった事よりも、お婆さんの体調に気が向いている。
私は昨日の件を一晩中悩んでいたのに……。
着替えを終えてから二人で畑に入っても、拓真はいつも通り。
接し方や口調や眼差しも普段と変わらない。
私は罪悪感に駆られて辛いのに、普段と変わりない様子を見ると、本当に脈がないんだなって思う。
「全体的に雑草生えてきたから、今日は分担して雑草抜こう」
「は~い……」
お試しの一回を含めると六回目の農作業だけど、未だに拓真の感情が揺れ動かない現実に焦りを感じる。
そして、今日も無心で草むしり。
腰を曲げ続ける作業もだいぶ慣れてきた。
和葉が消沈しながら黙々と作業していた頃、拓真は元気のない様子に気付くと、一旦手を止めて和葉の元へ。
「今日は元気がないように見えるけど、昨日から具合が悪い? 今日はもう帰る?」
顔を覗き込むように心配の目を向けてくる拓真。
どうやら、体調の心配をしてくれたよう。
言動を遡ってみると、昨日は体調が悪くて先に帰宅したと思ったのかもしれない。
だから、約束をすっぽかした事を怒らなかったのかも。
もし、そうだとしたら嬉しい。
少しは私の事を考えていてくれてるんだ。
心配してくれてるんだ。
完全に脈がない訳じゃないんだ。
和葉は感銘を受けると、ジーンと瞳に涙を浮かばせた。
「具合なんて悪くないっ。元気元気!」
和葉はパアッと花が咲いたような笑顔ですすった鼻を赤く染めながら、パパパッと雑草を手早く抜き始める。
拓真は元気そうな様子を確認すると、元の作業位置に戻って行った。
彼は心の太陽だ。
いつも私に幸せの光を降り注いでくれる。
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