LOVE HUNTER

風音

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第六章

158.敦士

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「もう、いきなり走らせて何なのよ!」

「ごめんごめん。朝のHRが始まるまで時間がないから返事を待ってる余裕がなくてね。ちょっと強引な方が手っ取り早く話が出来ると思ったの」


「ふぅん。……で、大事な話って何?」



  和葉は腕を組んで、不服そうに上目遣いで尋ねた。
  他人の目が行き届かない場所で話をしようとしている時点で、どんな言葉が出てくるか察しがつく。



「あのさ、前から君の事がかわいいなって思ってて気になってたの。……ね、どう?  試しに俺と付き合ってみない?」



  男はやんちゃな笑顔でポケットに手を入れたままそう言った。


  大事な話とは予想通り。
  校内で告白されるのは、およそ三ヶ月ぶりの事。
  最近は拓真ばかりを追いかけていたせいか、他の男にまで目が行き届かなかった。




  この人は、全校集会の日に私が屋上から拓真に告白したのを見ていなかったのかな?
  私が気になるとは言ってるけど、今でも拓真を追いかけ回してる事を知らないから告ってきたんだよね。

  でも、答えは一つしかない。
  だから変な期待を持たせぬよう告白は断るつもりだった。



「あなたの事よく知らないし、あなたも私の事をよく知らないと思うし……」



  和葉はしどろもどろな口調でやんわりと断った。
  何故やんわりかと言うと、以前拓真に告白をハッキリと断わられた事が深く傷付いたから。

  しかし、男はめげずに話を続けた。



「じゃあ、これから俺の事を少しずつ知っていってよ。よく知る前に断らないで」

「……でも」


「今からもう知り合いだから、これからは知らないなんて言わせないよ」



  男はスラックスのポケットから何かを取り出して、和葉のブレザーのポケットにその何かを強引に押し込んだ後、機嫌よく去って行った。

  諦めを知らない男のスピーディーな言動に呆れた和葉はポカンと口を開けた。



  男が姿を消してから、和葉はポケットの中に手を突っ込んでその何かを指先で探した。


  カサカサ……

  触った感触でそれが紙だとわかる。
  ブレザーのポケットから畳まれた紙をつまみ取って中を開くと……。



「3-7 吉田 敦士よしだ あつし……?」



  紙には彼のクラス、名前、携帯番号が書いてある。


  出会い方のパターンとしては街のナンパと同じ。
  馴れ馴れしく近付いてきて連絡先を渡す。
  女が釣れるか釣れないかは、連絡の有無次第。



  連絡先の紙をどんな気持ちで渡してくれたかわからないけど、私の答えはたった一つしかない。
  恋愛で寂しさを紛らわすだけだった以前の自分とは、もうとっくにお別れしているから。

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