154 / 340
第六章
154.負けず嫌い
しおりを挟む全身ずぶ濡れ状態の和葉が帰宅すると、父親は玄関までバスタオルを持って出迎えてくれた。
ところが、部屋の奥からは聞いた事のない鳥の鳴き声がする。
和葉はバスタオルを受け取ってから父親に聞いた。
「もしかして、家の中で鳥が鳴いてるの? それともテレビの音? 鳴き声がやけにリアルなんだけど」
「あはは。鳥の鳴き声はテレビじゃないよ。リビングにインコがいるから見てごらん」
胸をワクワクさせながら父親の後についてリビングに入ると……。
テーブルの上に置いてある鳥かごの中には、白ベースでブルーと黒と黄色が混じった羽のインコが一羽、カゴの中央に設置されている一本の棒に止まっていた。
和葉は物珍しい目でグッと近付いてカゴの中を覗き込む。
「わぁ! 可愛い。……でも、どうしてインコを?」
「私はこれから年末にかけて繁忙期に入るから、残業で帰宅が遅くなっても和葉ちゃんが寂しくないように、この子を飼う事にしたんだ。私からのプレゼントだよ」
「ペットを飼うのは初めてだから嬉しい。インコって色鮮やかなんだね。性別は?」
「メスだよ」
「良かった。和葉は昔から妹が欲しかったから、同じ女同士で仲良くしなきゃね」
和葉は父親に次いで、新しく家族の一員になったばかりのインコに嬉しさが込み上げた。
「ペットショップの店員に聞いたんだけど、この子はもう大人だから人懐っこくてお話をするのがとても上手らしい。インコはオウムほど上手く話せないけど、教えたい言葉を復唱していけば少しずつ覚えるかもしれないね」
「へぇ、お話が出来るんだ。凄いね」
和葉は父親の話を聞いてから、早速言葉を教えたくなった。
「インコさん、和葉だよ。和葉だよ。和葉だよ。もう覚えたかな?」
「あはは、流石にそんな早く覚えないだろう」
父親は腕を組みながら気が早まる和葉を見てケタケタと笑う。
しかし、言葉を覚えるのは当分先だろうと思っていた矢先、奇跡は起こった。
「カズハ……ダヨ」
教えてから1分もしないうちに言葉を覚えたインコに、二人は驚きを隠せない。
「うわっ、凄い! 喋ったけど棒読みで感情がこもってない上に声が低っ」
「この子はなかなか記憶力のいい子だね。名前は和葉ちゃんが決めていいよ」
「ありがとう! ねぇ、おじさん。インコを自分の部屋で飼ってもいい?」
「いいよ。大事にお世話をしてあげてね」
和葉はバスタオルを首に巻いたまま、鳥かごを持って二階の部屋に運び込んだ。
新しいペットに愛情が湧き始めてきた和葉は、家族入りしたばかりのインコに夢中に。
「名前は……。そうだ、ハナちゃんにしよう。羽の色が華やかだからハナちゃんね。ハナちゃん、これから和葉と仲良くしようね」
「カズハ ダヨ カズハ ダヨ」
「違う違う。君の名前はハナちゃん。可愛い~。まぁ、超絶美人の和葉より少し見劣りするけど」
「……」
ハナちゃんがメスだとわかった途端、何故か負けず嫌いな一面が顔を覗かせてしまう。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる