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第六章
143.第四回目の農作業
しおりを挟む今日は四回目の農作業の日。
今朝から朝9時に拓真家に出勤する。
少し寝坊できたはずが、目が覚めたのはいつも通りの時間。
身体が拓真に会いたいと言ってる。
結局、恋というのは惚れた者負けだ。
今回を含めて残り二回の農作業を乗り切ったら、ようやく拓真と甘い甘いデートが出来る。
この目的の為に毎回汗水垂らして取り組んできたんだもんね。
だから、最後はちゃんと約束通りご褒美を貰わないとね。
んふふ……。
どこでデートをしようかな。
どんな事をして一日を過ごそうかな。
和葉はデートをする日が待ち遠しくて、包まった布団の中で湧き上がる喜びが抑えられない。
身支度を終えて外に出ると、空模様は太陽が厚い雲に覆われていて少し薄暗い。
アプリの天気予報は晴れのち曇りだったのに。
拓真家に到着してインターフォンを押すと、お婆さんはいつものように玄関まで私を出迎えてくれた。
しかし、今日のお婆さんは明らかに様子が違う。
「ゴホンゴホン……。和葉ちゃん、いらっしゃい。今日も畑仕事よろしくね。……ゴホゴホ」
「お婆さん。咳が辛そうだけど、もしかして風邪を引いたの?」
「そうみたいね。昨晩から喉の調子が悪くて」
「えぇっ、大変! 布団に横になって休まないと。和葉が代わりにお昼ご飯を作るから心配しないでね」
「悪いわね。じゃあ、今日はお言葉に甘えさせてもらうわね」
高齢者はちょっとした風邪でも大事に至ってしまう場合があるから、今日は休んでもらう事にした。
洗面所で作業着に着替え終えてから畑に出ると、先に畑に入っている拓真もお婆さんの体調を心配しているのか少し表情に元気がない。
畑に入ると、屈んで作業を進めている拓真の列に入って端の向こう側から声をかけた。
「おはよ! 今日は何をお手伝いすればいいの?」
和葉は軍手を片方づつはめながら、柔らかい土を踏みしめながら拓真の方へ。
拓真は身体を起こして真横についた和葉に目線を合わせると、農作業を始めた当初と比べて随分逞しくなった姿を見て感銘を受けた。
「農作業がずいぶん板に付いてきたな」
「そう?」
「午前中は人参の追肥をしていこう。今からやり方を教えるから」
「うん。あ! 今日はお婆さんの代わりに和葉がお昼ご飯作る事にしたから」
「えっ……。お前、料理出来るの?」
普段から何かと頼りない和葉が少しだけ女性らしい一面を覗かせると、一瞬拓真の目の色が変わった。
「料理は愛情がスパイスでしょ? 大丈夫! 愛情なら沸騰して溢れ返りそうなくらい、いーーっぱいあるからね。心配しないで任せてちょうだい!」
「……大丈夫なのかな」
拓真はもうこの時点で不安材料しか見つからなかった。
お婆さんの代わりに料理するって自信を持って言ってみたけど……。
普段から料理なんてしないから、当然出来る訳がない。
あーぁ。
こんな事になるなら、先におじさんに料理を教れば良かった。
料理は家庭科の調理実習っきりで、包丁なんて全く握っていない。
しかも、具材より先に指を切ってしまうから、いつも足手まといになっていた。
最終的には邪魔者扱いに。
だから、自分の役割はいつも味見担当だった。
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