143 / 340
第六章
143.第四回目の農作業
しおりを挟む今日は四回目の農作業の日。
今朝から朝9時に拓真家に出勤する。
少し寝坊できたはずが、目が覚めたのはいつも通りの時間。
身体が拓真に会いたいと言ってる。
結局、恋というのは惚れた者負けだ。
今回を含めて残り二回の農作業を乗り切ったら、ようやく拓真と甘い甘いデートが出来る。
この目的の為に毎回汗水垂らして取り組んできたんだもんね。
だから、最後はちゃんと約束通りご褒美を貰わないとね。
んふふ……。
どこでデートをしようかな。
どんな事をして一日を過ごそうかな。
和葉はデートをする日が待ち遠しくて、包まった布団の中で湧き上がる喜びが抑えられない。
身支度を終えて外に出ると、空模様は太陽が厚い雲に覆われていて少し薄暗い。
アプリの天気予報は晴れのち曇りだったのに。
拓真家に到着してインターフォンを押すと、お婆さんはいつものように玄関まで私を出迎えてくれた。
しかし、今日のお婆さんは明らかに様子が違う。
「ゴホンゴホン……。和葉ちゃん、いらっしゃい。今日も畑仕事よろしくね。……ゴホゴホ」
「お婆さん。咳が辛そうだけど、もしかして風邪を引いたの?」
「そうみたいね。昨晩から喉の調子が悪くて」
「えぇっ、大変! 布団に横になって休まないと。和葉が代わりにお昼ご飯を作るから心配しないでね」
「悪いわね。じゃあ、今日はお言葉に甘えさせてもらうわね」
高齢者はちょっとした風邪でも大事に至ってしまう場合があるから、今日は休んでもらう事にした。
洗面所で作業着に着替え終えてから畑に出ると、先に畑に入っている拓真もお婆さんの体調を心配しているのか少し表情に元気がない。
畑に入ると、屈んで作業を進めている拓真の列に入って端の向こう側から声をかけた。
「おはよ! 今日は何をお手伝いすればいいの?」
和葉は軍手を片方づつはめながら、柔らかい土を踏みしめながら拓真の方へ。
拓真は身体を起こして真横についた和葉に目線を合わせると、農作業を始めた当初と比べて随分逞しくなった姿を見て感銘を受けた。
「農作業がずいぶん板に付いてきたな」
「そう?」
「午前中は人参の追肥をしていこう。今からやり方を教えるから」
「うん。あ! 今日はお婆さんの代わりに和葉がお昼ご飯作る事にしたから」
「えっ……。お前、料理出来るの?」
普段から何かと頼りない和葉が少しだけ女性らしい一面を覗かせると、一瞬拓真の目の色が変わった。
「料理は愛情がスパイスでしょ? 大丈夫! 愛情なら沸騰して溢れ返りそうなくらい、いーーっぱいあるからね。心配しないで任せてちょうだい!」
「……大丈夫なのかな」
拓真はもうこの時点で不安材料しか見つからなかった。
お婆さんの代わりに料理するって自信を持って言ってみたけど……。
普段から料理なんてしないから、当然出来る訳がない。
あーぁ。
こんな事になるなら、先におじさんに料理を教れば良かった。
料理は家庭科の調理実習っきりで、包丁なんて全く握っていない。
しかも、具材より先に指を切ってしまうから、いつも足手まといになっていた。
最終的には邪魔者扱いに。
だから、自分の役割はいつも味見担当だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
リンクして跳んだ先は異世界だった!?幸せを願う者にもらった未来~
すずなり。
恋愛
小学校の教師をしていた万桜(マオ)は、新任教師の希星(キララ)に頭を悩まされていた時に異世界に飛ばされる。
そこで呼ばれた聖女は『一人』だと告げられ、キララが立候補する。
巻き込まれ召喚者のレッテルを貼られたマオは金を渡されて解放されるが元の世界に帰れないことを知り、遠くの町に向かうことにした。
そこで教師まがいのことをして生活をしていくが、町に異変がーーーーー?
※お話は全て想像の世界です。現実とは関係ありません。(異世界には行ってみたいです。)
※メンタル薄氷に付き、コメントは受け付けることはできません。ご了承ください。
※ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。
それではレッツゴー。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる