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第五章
136.遠い自宅
しおりを挟む最初に乗った電車で30分ほどひと眠りした後、電車を二回乗り換えた。
どんなに多くの景色を瞳に映し出していても、最寄駅にはなかなか到着しない。
電車にあまり乗る機会がない拓真は長い乗車時間は少し参り気味に。
「乗り換えを含めてかれこれ1時間半くらい電車に乗ってるけど、一体いつになったら到着するの?」
「実はこの路線の終点なの。あともう少しだよ」
毎日通学してるから私は長い乗車時間には慣れっこだけど、拓真の口からはフゥと吐息が漏れた。
暗闇に包まれる車内の窓ガラスは自身の姿を映し出していたが、拓真は窓の奥の景色をぼんやりと瞳に映している。
「遠いな……」
「だから『ホントに家まで送ってくれるの?』って確認したでしょ」
「そーゆー意味だったのか……。ま、今日は特別だからな」
「私は拓真の『大事な人』だもんね」
「……」
「わかってるってば。あの時は男から守ってくれる為にそう言ったんだよね。……それくらいわかってるよ」
消えていく語尾にいまの本音が含まれている。
ーーそう、わかっている。
今の立ち位置はただの農作業仲間。
恋人になる日まで、まだまだ遠い。
だから、これからはより一層努力して、本当の大事な人になれるように頑張らないとね。
最寄駅に到着して電車を降りると、拓真は身体を支える為に腕を掴んだ。
本当は手助けがなくても歩けるけど、あともう少しだけ身近に感じたかったから、最後にちょっとだけ欲張った。
きっと、小さなわがままくらいは許されるはず。
人がまばらに歩く駅の階段を下りきった踊り場で、拓真は言った。
「家まで歩けそう?」
「うん、大丈夫。時間が遅いからここまでで大丈夫だよ。今日は本当にありがとう」
拓真は少し元気が出た和葉に安心すると、支えている腕を離した。
「農作業の日は何時出なの?」
「んー、朝の6時くらいかな。うちから拓真の家までは1時間50分くらいかかるから」
「……最初から家が遠いって言えよ」
「だから、10時って交渉したのに、拓真は『野菜は生きてる』だの、『畑仕事はデリケートな作業』だの、訳わからない理屈を言い並べてきたんじゃん」
「そうだっけ?」
「もう! 都合が悪い事は忘れちゃうんだから」
農作業をするようになってから、早寝早起きが習慣づいた。
初日のあの日は、バイト後にクラブでオールした後に自宅でシャワーだけ浴びて、始発に乗って拓真の家に向かって農作業をした時はマジで死ぬかと思った。
最初は農作業を軽く見ていたところがあったのかもしれない。
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