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第五章
134.幸せな時間
しおりを挟む拓真は和葉の歩くペースに合わせて歩いた。
そんな心優しい気遣いに胸がいっぱいに。
「ねぇ、ホントに家まで送ってくれるの?」
「マトモに歩けない足で帰れるの?」
「でも、学校に宿題を取りに戻れなくなっちゃうよ」
「別にいいよ。明日の朝学校でやればいいし」
「拓真は学校まで徒歩圏だから、交通ICカードとか持ってないんじゃないの?」
「電車通学していなくても、それくらい持ってるよ。……それより、お前の元気がないと調子が狂うから」
会話のキャッチボールを繰り返したら、彼の本音が漏れた。
こんなに些細な心配でも胸にはしっかり響いている。
本当に心配してくれてるんだね。
拓真にとっては何気ない事でも、私は余韻に浸るほど嬉しかったよ。
普段は意地悪でツンツンしていて無愛想な言い方ばかりだけど、さり気なく力になってくれるし、前向きになれるように勇気を与えてくれる。
たまに覗かせてくれる優しい面も含めて、全部好きなんだよ。
初めて拓真と一緒に電車に乗った。
でも、残念ながらこれはデートではない。
ストーカー被害に遭った私を心配して付き添ってくれるだけ。
ガタン ゴトン…… ガタン ゴトン……
ーーそれは、途方もなく長い長い道のり。
窓ガラス一枚挟んだ向こうの景色は、過ぎ去る街にお別れして、次の新しい景色をゆっくりと描いていく。
私達が乗車している下り電車は、次の駅に到着する度に乗客数が減っていき、騒々しかった車内はちらほらと隙間が出来ていく。
窓から差し込む夕日も、瞼を閉じるようにゆっくりと山の向こうに姿を消して行く。
いつしか車内灯が点灯した。
空一面は暗闇に包まれていく。
いつもは一人ぼっちの道のりは音楽を聴いて目を閉じている。
だけど、今日は隣に彼がいる。
だから特別に幸せ。
あまりにも距離が長いから、拓真は席に座って腕を組みながらあくびを繰り返して、カクカクと不揃いの角度に揺れ動いていた。
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