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第五章
133.友達
しおりを挟む男の車が見えなくなった頃、拓真は地べたに座り込んでいる和葉の目線まで屈んだ。
「大丈夫?」
「うん。騒ぎに巻き込んでごめんなさい。拓真のほっぺが怪我してる。絆創膏を持ってるからちょっと待っててね」
和葉は肩がけのカバンから定期入れを取り出して中の絆創膏を手に取り、拓真の右頰に貼った。
頬に貼られた小さな勲章は、和葉からの感謝の印。
「はい、出来たよ」
「サンキュ」
拓真の頬に触れた指先からは愛おしさを感じる。
小さく微笑む瞳からは、まだ芽生えたばかりの恋心が揺さぶられた。
「今から警察行って被害届を出しに行くか」
「……ううん、そこまでしなくていい」
「正気? 被害に遭っているのに何もしなくていいの?」
「家族に迷惑かけたくないから」
「……後悔しない?」
「うん。……さっきは拓真が助けに来てくれると思わなかった。学校まで忘れ物を取りに行ったのに、どうしてこんなに早く戻って来れたの?」
私の元を離れてから、3分もしないうちに戻って来た拓真。
お陰で最大級のピンチを回避する事が出来たけど。
「お前と一緒に帰る約束をしてるから」
「え……」
「途中で気付いたんだ。駅までの道のりは10分程度だから、一旦駅で別れてから忘れ物を取りに行ってもいいかなって。お前は約束を守って農作業を手伝いに来てくれてるのに、俺の方が約束を破る訳にはいかないから」
拓真はそう言いながら座り込んでいる和葉の手を引いて身体を起こした。
和葉は拓真の計らいに嬉しくて頬を赤く染めた。
「ありがとう。アイツに連れ去られそうになった時に、拓真が戻って来てくれたから本当に助かったよ。でも、アイツはまた私のところに現れるかな」
「もう、来ないよ」
「どうしてわかるの?」
「あんなに強がっていても、時間を使って探し回るほど想いを寄せていたお前に失恋したんだ。あの様子からすると相当傷付いてたんじゃない」
「でも、諦めきれずに復讐してきたら?」
「その時は電話して。いつでも助けに行くから」
「えっ、電話? だって、拓真の番号……」
「ボケっとしてないでスマホを貸して。今から俺の携帯番号入れるから」
「……いいの?」
「調子に乗って不要なメールを送って来ても返信しないから。これを機に悪用するなよ」
拓真は意地悪を挟みつつも、和葉にスマホを渡すように手を差し出した。
和葉は拓真をより身近に感じて嬉しくて照れ臭さを隠しきれないまま、カバンからスマホを取り出して渡すと、拓真は慣れた手つきで番号入力を始めた。
「いつでも助けに行くって事は、もしかして拓真は私の事が好……」
「俺達、友達だろ?」
「え! 友達……」
「うちの畑で農作業を頑張ってくれてるから、持ちつ持たれつの関係だよな。でも、これで黒髪の件はチャラだから」
残念な事に、恋の期待は見事に打ち砕かれたけど、拓真の身近な存在には変わりないと確信した。
拓真はスマホを返してから駅へと向かう。
和葉はその後を追ったが、ストーカーの恐怖が付きまとう。
すると、拓真はなかなか追いついて来ない様子に気付いて一度足を止めて振り返った。
和葉は頼りない歩き方ではあるが、後を追っている。
「足、震えてない?」
「あ……うん。ショックが大きかったせいか、足が思うように動かなくて」
「……今日はお前んちまで送るよ」
拓真はそう言うと、足取りを覚束せている和葉のカバンを持って駅へ歩き出した。
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