LOVE HUNTER

風音

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第五章

131.解決へのバトン

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  身体を張って相手に立ち向かっている姿を見た和葉は、拓真の圧倒的な強さに言葉を失った。

  すると拓真は、負けを認めない男から目線を外して黙って佇んでいる和葉に顔を向ける。



「俺が手を貸すのはここまで。後はお前が誠意を伝える番だよ」

「え……」


「コイツは卑劣で横暴な手を使ったけど、お前に思いを寄せている事には違いない。結構一途っぽいよ」

「……」



  男は拓真に本心を洗いざらい語られてしまうと、爆発したように怒り始めた。



「なんだと!  人様の事を好き勝手言いやがって」

「……だって、本当の事だろ」



  拓真は浮いている男の身体を手前に一度だけ大きく揺さぶり、反論してきた口を塞ぐ。
  男が歯を食いしばって観念したかのような態度を見せると、拓真の目線は再び和葉へ。



「いいか。行き過ぎた言動に怯えたり、解決を待つだけの他力本願じゃ真の解決に繋がらない。人の言動に惑わされずに気をしっかり持って、自分の口から今の想いを伝えるんだ」



  拓真はそう言うと、解決へのバトンを和葉に渡した。
  これが、騒動を沈静化させようとしている拓真の目論見だった。



  しかし、急にバトンタッチをされても心に余裕がない。

  今回は運良く助けてもらえたけど、拓真がいつも傍に居る訳ではない。
  悪縁は断ち切りたいけど、男は今後もバイト先に現れる可能性があるし、逆恨みをされる可能性もある。



「俺がちゃんと見守っててやるから」



  拓真は顔を俯かせながら考えをまとめている和葉に向けて、最後に勇気を与えた。
  和葉は心強いひと言にスイッチが切り替わる。



  そう、拓真の言う通り。
  愛莉の時もそうだったけど、他力本願じゃダメ。
  トラブルの根本的な原因としっかり向き合わなければならない。 

  だから、言った。



「………私、あなたの好意が嬉しくない。こんなところまで会いに来られても迷惑だから」

「うっ……」


「私は好きな人だけを真っ直ぐに見つめていきたい。……でも、その好きな人とはあなたじゃない。だから、もう二度と会いに来ないで欲しいの。お願いします」



  和葉は受け取った勇気を出して、自分の気持ちを吐き出した。
  深々と頭を下げ、男に精一杯の誠意を尽くす。



  言えた。
  威圧的な目線に怯えず、興奮したり取り乱したりせずに、喉の奥で渋滞していた想い全てを……。

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