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第五章
129.真実の目
しおりを挟む拓真は小馬鹿にされた事が癪に障ると、顎を軽く上げて男を見下し、再び左手を男の胸元に叩きつけてグイッと掴み上げた。
和葉は男の手が離れたと同時にすかさず二歩後ずさる。
「へぇ~、面白れぇ。……じゃあ、やれよ。俺を東京湾のど真ん中に沈めてみろよ」
血走った目は今にも眼球が飛び出しそうで、つり上がった口角は一切引きを見せない強情さを表していた。
今まで見た事もない挑発的な表情が拓真の本気度を証明してる。
和葉「やだ……、何言ってんの? それはダメ」
男「くっ、ガキのくせにいい度胸してるじゃねーか」
拓真「何? それって脅迫? あんた、もしかしてガキの俺にビビってんの?」
男「なんだと! この俺様が冗談を言ってるとでも思ってんのか? こらぁ!」
拓真の挑発行為に堪え兼ねた男は、右手を大きく振って拓真の手をパシンと跳ね除けた。
ところが、振り払ったと同時に右薬指にはめている金のゴツい指輪が拓真の右頬に触れて3センチほどの傷刻まれて、頬には血がうっすらと滲み始めた。
「……っ、てぇ」
「拓真っっ! ほっぺに血がっ……」
拓真は頬に傷を負った事を知ると、左手の甲で頬の血をぬぐいペロリと舐めた。
その瞬間、暴走族時代のイケナイスイッチがオンに切り替わる。
「あのさ。俺、実はこう見えても暴力嫌いなんだよね。……でも、仕方ないね。これから先はあんたが責任取ってね」
血相を変えた拓真は、拳を反対側の手のひらに押し当ててボキボキと指を鳴らす。
「俺ってさ、生まれて此の方喧嘩で負けた事ないんだよね。幼い頃から誘拐されないようにあらゆる格闘技を習ってたから、腕っぷしには自信があってね。悪いけど、あんたに負ける気がしねぇ」
立ち向かう事を諸共せずに暴走族時代の血が騒ぎ、挑発行為が一段階アップした。
「未成年のガキで保護者がいなくても、この腕一本で女の一人くらいは守れるんでね。それでも立ち向かう勇気があるなら、いつでもかかってきな。面倒くせぇけど相手にしてやるから」
「クソ生意気なガキのくせに、この俺様に向かって無駄口を叩きやがって」
青筋を立てて牙をむいた男は、拓真の胸ぐらに掴み掛かろうとしていたが、拓真は先に男の手を振り払って男の襟元を掴み上げた。
拓真は先手を取るなり再び冷血な目で見下ろす。
「あんたはコイツに好意を持ってるみたいだけど、コイツの容姿以外どんな事を知ってんの? 嫌われてるのに気付かないなんて、どうせ上っ面しか見てないんだろ」
「ふんっ、容姿も魅力の一つだろ? 美人でグラマー以外に何か特別な理由が必要か? 青臭いガキにはまだお姉ちゃんの魅力がわかんねーだろ」
男は吐き捨てるようにそう言うと、拓真は突然カッと目を開いてワナワナと身を震わせた。
「……見くびるな。コイツはな、容姿は派手だけど、いつも前向きで頑張り屋で、不器用だけど、一生懸命で誰にも負けないくらい根性がある。どんな試練が立ちはだかっても、後ろを向くような奴じゃない。あんたが考えてるような、その辺のチャラチャラしてる女とは違うんだ」
一瞬、涙が出そうになった。
告白が失敗してから、拓真が自分という人間をちゃんと見てくれていた事を、今この瞬間初めて知ったから。
言葉の奥に隠された想いが伝わったばかりの和葉は、新たに芽生えた感情に胸を熱くさせた。
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