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第五章
125.ストーカー男
しおりを挟む今日もいつも通り、拓真と下駄箱で待ち合わせて一緒に帰宅。
丸一日嫉妬の嵐に耐え続けたご褒美は、駅までの道のりの10分間。
でも、その10分間だけは私の為に使ってくれる。
だから、一日の全ての想いを尽くすのみ。
駅まで残り半分くらいの距離を歩いた時、拓真は突然足を止めた。
「やべっ…。明日提出の宿題を教室に置き忘れてきた」
「えっ、忘れ物?」
「悪い、俺を待たないでいいから先に歩いてて。後から追いかけるから」
「うん、……わかった」
物分かりのいい返事をしても、表情はブスッと口を尖らせている。
拓真はかけ足で学校に戻り、私は言われた通りゆっくり一人で先を歩く事にした。
一人で先に駅まで歩くなんて、なんか損した気分。
約束の10分は私にとっては貴重なのに……。
私を置き去りにして学校に戻っちゃうなんてあり得ないよ。
すっかり不機嫌になった和葉がぶつくさ文句を言いながら歩いていると……。
「よぉ、カラオケ店の美人なお姉ちゃん。店じゃ遊べないって言うから、俺様がここまで迎えに来てやったぜ」
背後から呼び止める男の声がした。
その声は勿論拓真ではない。
聞き覚えのある声に当然いい記憶はない。
本当は無視したかった。
でも、至近距離で声を掛けられたからには、振り返らなければならない。
だから、勇気を出してゆっくりと振り返った。
すると、予感は見事に的中。
獰猛な目つきで身体を舐め回すように見つめていたのは、カラオケ店の常連客だった。
あいつ……。
高校を探し当ててまで会いに来るなんて、正気じゃない。
ってか、本物のストーカーじゃん。
店長の予想通り、最悪の事態になっちゃったよ。
信じられない。
気持ち悪いし、怖いよ。
しかも、そんな時に限って一人。
拓真……。
お願いだから早く戻って来て。
宿題なんてどうでもいいから助けて。
「なっ何ですか……。こんな所まで……」
今は勤務中じゃないから従業員と客の関係ではない。
下校時刻だから周りに通行人はいるけど、こんなピンチな時に限って頼る人がいないし、怖くて足がガクガク震えてる。
どうしよう。
早く逃げ出したいけど、逃げたら何をされるかわからないし、拓真が戻ってくるかもしれないから……。
まるで目にゴミが入ってしまった時のように、ストーカー男の出現は非常に厄介なもの。
男は和葉にフラッと近付き、不敵にニヤつき顔をググッと近付ける。
和葉は思わず身体を反らせた。
しかし、威圧感に耐えきれず、地面と一体化してしまった足は硬直して動かない。
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