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第五章
124.心の天気予報士
しおりを挟む最近夜風がひんやりしてきて、ますますおじさんのお味噌汁が恋しくなった。
バイト先からの帰りの電車で、夕飯の味噌汁の具材を予想するのは、この電車内で私だけかもしれない。
お母さんは新婚のクセに生活スタイルを変える様子がない。
何処をほっつき歩いてるのかわからないけど、休日でも昼間から家に居たり居なかったり。
仕事から帰宅するのは決まって夜10時頃。
深夜から朝方にかけて帰宅していた以前と比べると、結婚してからは恐ろしいほど帰宅時間が早くなった。
でも、帰って来たと思ったら酒酔い激しいのか、トイレに直行。
トイレを占領して嘔吐をする姿は昔から変わらない。
相変わらず世話がかかる母親だ。
将来、こんな親父みたいな母親には絶対なりたくないし、子供は愛されている子として育ててあげたい。
家に帰宅しておじさんが準備した夕食を頂いていると、おじさんは食事の手を進めながら言った。
「和葉ちゃん。最近、心のお天気が快晴だったのに、ここ数日はやや曇り気味なのかな?」
「どうしてそんなに和葉の気持ちがわかるの?」
「おじさんは和葉ちゃんの心の天気予報士だからね。顔を見れば何でもわかるよ。今は恋をしてるのかな」
和葉はズバリの回答を受け取ると、頬を赤く染めた。
「えっ! おじさんにはそう見えるの?」
「毎日学校に行くのも楽しそうだし、帰宅してからも機嫌のいい日が増えたからね。相手の男性は同じ学校の生徒なの?」
「それは内緒~!」
「ははっ。じゃあ、いつか話してくれるのを楽しみにしているよ」
おじさんは決して無理強いはしない。
血の繋がった父親じゃなくても、こうやって微々たる変化に気付いて家族として暖かく見守ってくれる事はやっぱり嬉しい。
一人ぼっちのご飯に、一人ぼっちのお留守番は長年続いたから慣れているけど、やっぱり作りたての愛情がこもった料理と、毎日見守ってもらえる笑顔に勝るものはない。
「おじさんには何でもお見通しなんだね」
「和葉ちゃんが何でも相談してくれるようになったら、きっと一人前のお父さんになれるのかもしれないね。これからも本物のお父さんになれるように頑張るからね」
おじさんの温かい眼差しは、今日も私の心を繋ぎ止めてくれている。
母親と二人きりの生活は寂しかった。
家に帰宅しても、居るんだか居ないんだかわからないほど。
『おはよう』
『おやすみ』
『ただいま』
『おかえり』
壁に向かって呟く挨拶。
これが空振りとわかっていても、何処か返事に期待している自分もいた。
だから、冷え切っていた心を包み込んでくれるおじさんは今や大切な人に。
愛というものは、きっと恋愛だけじゃない。
私はそう信じてる。
いつか、おじさんとは戸籍を超えた家族になれる日が来るのかな……、なんてね。
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