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第五章
121.拓真の好きな人
しおりを挟む「あの子は一瞬の事故で一生の傷を負わせてしまったと同時に、自身の心にも一生残る傷を負ってしまった。その上、幼い頃から栞ちゃんに好意を寄せていたから余計に辛かったみたい」
「拓真が栞ちゃんを……?」
「『栞を傷付けたのは自分のせいだ』って。部屋に塞ぎ込んで何度も自分を責めていたわ。事故後は、栞ちゃんの家まで毎日頭を下げに行ってたの」
「……」
「結局、あの事故が引き金になって暴走族を辞めたんだけど、栞ちゃんが街を去ってからも毎日罪悪感に押し固められていたみたい。笑顔が消えて、生活が180度変わってしまった。殻に閉じこもってしまったかのように、メガネをかけて一人で静かに過ごす事が多くなったのよ」
先週、拓真の伊達メガネを壊してしまった時に少しだけ話してくれた。
メガネをかける理由は、『少しは静かに暮らせると思ったから』って。
ひょっとしたら、あのメガネは過去を封印する為の道具の一つだったかもしれない。
メガネをかけなくなったからは、女の子に騒ぎ立てられる日々を過ごしているけど、きっと事故直後は人との関わりをシャットアウトするかのように心に鍵をかけた。
あのメガネには深い事情があったんだね。
そうとも知らずに壊してしまった。
接触事故からあまり時間は経ってないようだけど、今は毎日どう思いながら過ごしてるのかな。
栞ちゃんに傷跡を刻んだ過去は、トラウマとして心を締め付けているのだろうか。
でも、栞ちゃんはすごい。
危険を顧みずに拓真を更生させた。
その間、どれだけの苦悩や葛藤があったのだろう。
拓真はまだ栞ちゃんが好きなのかな。
街を去ったみたいだけど、まだあまり時間が経ってないからきっと忘れてないよね。
いま栞ちゃんが再び拓真の前に現れてしまったらと思うと……。
「それに、昨年お爺さんが亡くなってから体調を崩した私の所に、拓真が行くように提案したのも栞ちゃんなんだよ」
「だから今はお婆さんと暮らしてるんだね。……で、その栞ちゃんって子はいま何処に?」
「さぁね……。去年の冬に転勤で引っ越して行ってからは全く見てないからね」
お婆さんがぼんやりとした目で栞ちゃんを思い描いていると、球根の植え付け作業を終えた拓真が母屋へ戻って来た。
拓真は二人の間に置いてある蒸した芋が置いてあったはずの空のお皿を見た途端、両腕を組んでムスッとした様子を見せる。
「お前、散々サボってたくせに俺の分の芋まで食うな。ロクに働きもしないクセに食いしん坊だな。こっちはお前のせいで昼メシも満足に食ってない上に、余分に働いて腹が減ってるというのに」
「だって、自分で収穫したお芋が美味しかったんだもん!」
「だからって全部食うなよ。少しは労働者を労え」
ムキになって言い争ってる二人の様子を見ていたお婆さんは、その場をゆっくり立ち上がって和葉の肩をポンと叩いた。
「でも、もう大丈夫そうよ。ここまで回復したのは一体誰のお陰かしらね。心から感謝しなきゃね」
そう言い残すと、台所の方へ去って行った。
一方、状況が飲み込めない拓真は目が点に。
「何の話? 回復って」
「あっ、ううん。なんでもない」
当然拓真の過去の話をしてたなんて言える訳がない。
先日、拓真が暴走族時代の話をした時に、まだ話の続きがあるかのように遠い目で何処かを見つめていたのは栞ちゃんの事を思い出していたのかな。
今はお婆さんの話を聞いた後だから何となくそう察した。
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