LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
120 / 340
第五章

120.更生した理由

しおりを挟む


「両親は二人とも弁護士でね。拓真は両親の期待を背負って幼稚園から私立の名門校に通っていたの」

「へぇ~。意外」


「でもね。両親の職業柄人から怨みを買う事があったから、子供達には自分で身を守れるように格闘技を習わせていたの。他にも、ピアノ、書道、バイオリンをね」

「うんうん、それで?」


「勉強と習い事の両立で自由が無い生活を送っていたから、そんな毎日が窮屈だったのかもしれないね。非行に走った原因はそこにあったんじゃないかと」

「自由が欲しかったのかな……。私は幼い頃から自由奔放に生きてきたから、逆に気持ちがわからないかも」



  私は母親に見放された放置教育で。
  拓真は両親から期待を背負った窮屈な生活。

  私達はあまりにも対照的だから、愛を知らずに育った私からすると贅沢な悩みにも感じる。

  でも、拓真には自由が奪われた生活が耐えがたかったんだね。



「でもね、あの子が更生出来たのは幼馴染のしおりちゃんのお陰なんだよ」

「栞ちゃん……?」



  知らない女の名前が出た瞬間、胸がズキっと痛んだ。
  その上、拓真の過去に深く関わっていると思ったら、小さな嫉妬心が沸き起こり始める。



「栞ちゃんは優しくて気立てが良くて、とても綺麗なお嬢さんだった。実はお爺さんの介護もお手伝いしに来てくれたのよ」

「へぇ……」



  過去とは言えども、お婆さんがベタ褒めしている時点で何故か自分のテリトリーを侵されたような気持ちになった。



「栞ちゃんは誰よりも拓真の更生を願ってた。だけど、去年暴走族の仲間と出かけようとしていた拓真を引き止めようと思ってバイクの前で立ちはだかったら、拓真がハンドル操作を誤って栞ちゃんを轢いてしまってね」

「えっ……」


「幸い命に別状はなかったけど、左ふくらはぎに15センチほどの大きな傷を負ってしまった。それが結構深い傷でね。医者からは傷跡が一生残るかもしれないって」

「左ふくらはぎなんて、スカートの下から見えるところなのに……」



  一瞬、ふくらはぎの傷跡を想像した。
  隠そうと思えばいくらでも隠せる場所かもしれないけど、一生隠して暮らさなきゃいけないと思うと話は別に。

  私ならきっと短いスカートが履けない。
  スカートの長さで隠すか、スカートを諦めてパンツにするか。


  同性の立場から考えても隠す事しか考えられない。

  きっと、海やプールや温泉に行くことさえ躊躇ってしまうだろう。
  素足が出せない生活に耐えられるか、今の自分には自信がない。



  お婆さんは、まるで遠くを眺めるような目つきで農作業中の拓真を見つめている。
  一方の拓真は、過去の話をされている事も知らずに作業をせっせとこなす。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...