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第五章
112.花咲か爺さん
しおりを挟む言い渡された作業場につくと、指示通りに大根畑の端から順番に間引きを始めた。
ところが……。
「おいっ! 何だこれ」
拓真は黙々と作業を始めたばかりの和葉の背中に向かって怒鳴り声を上げた。
何よ……、もう。
さっきまで機嫌が良かったのに。
拓真はその時その時の気分に波があってついていけないよ。
和葉は作業していた手を止めて、ちょっと無愛想気味に振り返る。
「……何ィ?」
「お前は花咲か爺さんかっ。種を適当に蒔いただろう」
拓真がカンカンに怒りながら畑に指をさしたので、渋々と腰をあげて拓真のいる場所へ移動した。
そこは先週私が種を蒔いた場所。
途中までは大根の芽の列がキレイに整っているのに、途中からは山から外れてあちこち不揃いに芽を出していた。
いま自分が作業しているゾーンの拓真が種を蒔いた綺麗に整列された場所と見比べてみると一目瞭然だ。
「あれ……、おかしいな。一生懸命種蒔きしたのに」
和葉は見覚えのない雑な作業っぷりに、首を傾げながら一週間前の記憶を辿った。
あ、そうだ!
きっと、拓真の筋肉を眺めていた時、手だけを動かしていたから無意識のうちに列を乱しちゃったのかもしれない。
「俺の見てない間にサボっただろ。こいつらにだってちゃんと命があるんだから真面目にやれよ」
「ごめ~ん」
「お前の性格みたいにひん曲がった大根に成長しちゃうだろ」
「性格がひん曲がってるのは、和葉だけじゃないはず」
「あ゛ぁっ?! 『性格がひん曲がってるのは和葉だけじゃない』って、他に誰の事を言ってんだ」
『そんなの言うまでもないじゃない』と言ったら、火に油を注ぐだけなので言うのをやめた。
学校の先生から日常的に怒られてるけど、拓真の元でも同じように怒られる。
だけど、拓真に怒られてた方が100倍いい。
ウフフ、幸せ……。
拓真の目線は私にだけ向けられている。
学校ではほとんどあり得ないのに。
クスッ。
メガネ無しの顔もかわいいけど、怒ってる顔も超かわいい。
放課後に10分間しか話せない時間よりも、こうやって感情を露わにしながら間近で怒られてる方が幸せ。
怒った声を隣で永遠に聞いていたいなぁ。
「……もっと」
「え……?」
「もっと、いっぱい怒って」
「アホか!」
ドMさが一層開花した和葉に対して、拓真は深いため息をついて呆れる一方であった。
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