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第五章
111.第三回目の農作業
しおりを挟む今日は待ちに待った、農作業三回目の日曜日。
平日に会える10分間とは比較にならないほど長時間一緒に過ごせる一日だ。
今日はこの一日を思う存分満喫するつもり。
朝から揺られる電車内のメイクにも、より一層気合いが入る。
しかし、現場に到着すると残念な事が一つ。
「和葉ちゃん、着替えは洗面所を使ってね。いつも遠慮なく使っていいからね」
「あっ、えぇ……」
作業着を居間で手渡してくれたお婆さんだけど、拓真の部屋で着替えをしていたお年頃の私にわざわざ気を遣ってくれたのであろう。
善意的なそのひと言によって拓真の部屋に出入りする機会を失った。
着替えを終えて畑に出ると、先に待っていた拓真がしゃがんだままこっちへ来いと言わんばかりに、指先を仰いで私を呼び寄せた。
「和葉~、ちょっとこっち来て」
段階的には本命の彼女よりも全然手前の単なる友達程度だと思うけど、まるで犬を呼び寄せるような扱いに。
まぁ、それでも呼び捨ては親近感が湧いてやっぱり嬉しい。
尻尾を振った犬のように傍に身を寄せると、先日の帰り際に話してくれた大根の新芽を見せてくれた。
その場にしゃがんで畑に視線を移すと、青々とした大根の新芽が所狭しと土から芽を出している。
「わぁ! 先週種を蒔いたばかりなのに、もうこんなにたくさん新芽が出てるんだね!」
「今日は大根の芽の間引きをしよう。葉の元気なやつを残して、中でも育ちの悪い芽を1本だけ抜くよ」
「芽が出たばかりなのに、もう抜いちゃうの?」
「先週は1つの穴に4~5粒ほど種を植えたけど、最終的に残すのは1本だけ。栄養を存分に吸収させる為には仕方がない。元気な子を丈夫に大きく育てよう」
種を蒔いた時は、みんな大きく成長してくれればいいなって思ってたけど、その中の1本を丈夫に育てる為に他の新芽を抜いていかなきゃいけないんだね。
なんか、かわいそう。
でも、拓真ったら『元気な子を丈夫に育てる』なんて言っちゃって、まるで子育てしてるみたい。
「ウフフ……。それって、将来拓真のお嫁さん候補の私との間に元気な子孫を残すように? 一体いつ私に愛の種は蒔かれるんだろう。はぁ、ドキドキしちゃう」
「はぁ………。また下ネタかよ。お前は相変わらずだな」
と、呆れてため息を漏らす拓真。
どうやら自分が纏わる話だと、小さな冗談すら言い返す気にもならないようだ。
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