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第三章
87.秘密主義者
しおりを挟む第二回目の農作業日を翌々日に控えた、金曜日のHR終了後。
キーン コーン カーン コーン
「起立。……礼」
終礼の挨拶を終えると、和葉は机の横のフックからカバンを取って、凛達に「バイバイ」と伝えてから教室を飛び出した。
凛は教室の小窓からヒョイと顔を出して和葉に言う。
「和葉~、ファーストフード店にお茶しに行こうよ」
「ううん、また今度!」
「何で毎日そんなに帰りが早いの? 用事でもあるの? それとも、バイトの時間を早めたの?」
「そんなんじゃないよ。……じゃ、また来週」
和葉は機嫌良く返事をすると、走って廊下を後にした。
日常生活に農作業が加わってからまだ日は浅いけど、あれから少しだけ生活が変わった。
休憩時間等に拓真に会いに行かなくなったけど、放課後の駅までの10分間は二人だけの時間として許可をもらった。
だから、今までアピールする為につぎ込んでいた時間は、放課後にパワーを発揮できるように充電している。
凛はすっかり付き合いが悪くなった和葉の背中を見届けた後、祐宇の前の席へと座る。
すると、二人の様子を一部始終見ていた祐宇はポツリと呟いた。
「凛。……まただね」
「うん。和葉ってさ、いつも自分の事を話さないよね」
本人に色々詮索してみても、あまり自分の事を喋らない事が、最近二人の話題として上がっていた。
「和葉さぁ、今週に入ってから教室で過ごす事が多くなったし、帰りはホームルームが終わった途端教室を飛び出して私達と一緒に帰らなくなったし。結局、拓真と上手くいかなかったのかな」
「……さぁね。三万円に食いついたと思ったら、何の相談も無しに屋上から告白したり、急に黒髪になったり、こうやって先に一人で帰ったり。和葉の考えがわからないよ」
祐宇と凛の二人は、和葉が全校生徒の前で屋上から告白したあの日から、拓真に本気で熱を上げているのではないかと思い始めていた。
しかし、本音まではなかなか行き届かない。
「ついこの前、何人目かは忘れたけど新しいお父さんが出来た話は聞いたよ」
「え! 和葉って母子家庭だったの? それは聞いてなかったわ」
「でも、恋愛面はいつも事後報告だから、普段はどんな恋をしてるかわからないね」
祐宇と凛の二人は、和葉と知り合ってから恋愛の話題は幾度となく振ったが、返事はいつも曖昧だった。
秘密主義者と思いきや、事後報告はしてくれる。
本当は話したいのか。
それとも、出来る限り黙っていたいのか。
毎日一緒に過ごしても、和葉の考え方がイマイチ読み取れなかった。
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