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第三章
76.座敷童子
しおりを挟む色んな思いが交錯しながら水道の蛇口を最大限までひねって髪に付着しているクリームを洗い流した。
美に関してはうるさい方だけど、夢中で洗髪したからお湯やシャンプーとかどうでも良くて、近くにあった石鹸をシャンプー代わりに。
タオル掛けにかかっているフェイスタオルで濡れた髪を拭きながら鏡に目線を向けると……。
「嘘……」
想定外の地獄絵図に言葉を失った。
髪に塗ってあったのは、ハンドクリームでもなくトリートメントでもない。
それは、【使用後】の姿を見て確信したから。
強いて言うなら、あれに似てるかも。
お盆の時期にテレビで観た心霊番組のアレ。
そう、黒髪でおかっぱ頭が印象的の座敷童子。
知らぬ間に髪に塗られてたのは紛れもなくカラーリング剤。
ギャルの命の金髪は、夢の世界へ舞い込んでいた間に妖怪座敷童子へと変貌を遂げていた。
身に覚えのないショッキングな現実に立ち向かえず、顔面蒼白になりながら洗面所で呆然として立ち尽くしていると……。
たまたま洗濯物を持って廊下を通りがかったお婆さんが、洗面所を覗きながらにこやかな笑顔でひと言。
「あら、良かった。お嬢さんの髪がキレイに染まったみたいね」
「え………、そ……染まったって? あああ……あのっ、こここ……これは一体」
「髪が酷く傷んでいたから可哀想だと思って、残り物の白髪染め使ったのよ。まだ一回分だけ残ってたからね」
「白髪……染め……? 17歳の……この私の髪に……?」
目尻を下げてウンウンと頷いて全く悪びれる様子もないお婆さんと。
前触れもなく金髪を失ってカタカタと震えながら絶句している私。
対照的な考え方を持つ二人の間に平和という二文字は存在しない。
この人は、いま一緒に暮らしている拓真のお婆さんだよね……。
髪が傷んでるからって、勝手に他人の髪に(しかも初対面)カラーリングをするか?
洗面所で黒髪に染まりきったところを確認した直後に、この黒髪は白髪染めで染めたと事後報告されても、時すでに遅しなんだけど。
でも、思い返してみたら災難が始まったのは今じゃない。
拓真は告白を断った後、私を畑に連れて行き、草むしりをするからと言ってポケットから爪切りを取り出して、瞬く間にラインストーン入りの可愛い爪を切り落としていった。
あの時は、あまりにも拓真が身勝手で飛んだ災難が起こったなって思ったけど……。
どうやら、お婆さんの遺伝子が多大に影響してるかもしれない。
もしかして、農作業の最終日には私の頭がつるっぱげになってるのでは……。
鏡を見る度に現実が受け入れ難くて、嫌な妄想だけが繰り広げられていく。
下手くそな美容師の卵のヘッドスパの夢よりも、座敷童子ヘアーになってしまった悪夢のような現実の方が夢であって欲しいと思った瞬間だった。
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