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第二章
59.一杯の味噌汁
しおりを挟む1歳にも満たない頃に離婚した実の父親は、顔も名前も知らない。
小学校低学年くらいの時に、実の父親の痕跡が部屋の何処かに残されてるかと思って家中隅々探し回ったけど、最終的に伝となるものが出てこなかった。
二人目の父親は、私が5歳の時に離婚したから、顔と名前が思い出せないくらい記憶が薄い。
自宅には二人目の父親と写したはずの写真が、何故か一枚も残されていない。
三人目の父親は、私と年が10歳しか違わなかった。
あれは、まだ私が中学一年生の時の父兄参観の日。
教室の背後にズラリと並ぶ父親達の中で、ズバ抜けて年が若いヤンキーが一人。
それが三人目の父親。
黒いヨレヨレジャージにビーサン姿で、首にはシルバーのネックレスと、ガラが悪くて一際目立っていた。
正直、あの日は父親と目を合わせたくないほど恥ずかしかった。
普通の父親をどれだけ羨ましく思った事か。
でも、結婚してから半年も経たないうちに両親は離婚した。
複雑な家庭環境下で育った事もあり、思春期だった中学生の頃は、遊び呆けて家に寄り付かなくなった。
しかし、一週間とか長期の家出をしても、母は捜索依頼どころか見て見ぬ振り。
昼夜逆転した生活を送っていた事も、少しは関係していたのかもしれない。
着替えを終えてからダイニングに向かうと、ダイニングテーブルにはランチョンマットが敷いており、その上には本日の夕飯のハート型のハンバーグとサラダと味噌汁が用意されていた。
温かい食事からは出来立ての湯気が立っている。
一見、洋食のハンバーグに和食の味噌汁なんてミスマッチだけど、私にはこれが最高の組み合わせ。
わかめと豆腐とネギが入った、ごくごく一般的な味噌汁。
おじさんが初めて味噌汁を作ってくれたあの日から、夕飯にはこの味噌汁じゃなきゃダメになった。
ミスマッチな料理の香りのハーモニーは、空腹により一層拍車をかける。
ハンバーグの形がハートなのは、おじさんは17歳にもなる私をまだ子供扱いしてる証拠なのかもしれない。
「うわっ、超ウマそう! いただきまぁ~す!」
「あはは。ご飯は逃げないからゆっくり召し上がりなさい」
食事の挨拶で手を合わせた後は一番に箸を取り、次にお椀を持って味噌汁の香りを存分に嗅ぎ、香りを堪能した後にようやく口をつける。
喉に流れ込む味噌汁が一日の疲れを癒してくれる。
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