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第二章
52.劇的につまらない農作業
しおりを挟む「待った! シャツの袖は捲るな」
「……え、何で? 今日の最高気温は30度超えだから袖を捲くらなきゃ暑いよ。拓真は白いTシャツの半袖を肩まで捲り上げているのに、どうして私だけ腕を出しちゃいけないの?」
「お前の腕が虫に刺されたり怪我をしたら困るだろ。肌は露出しないように服の中にしまってて」
和葉は自分を労わるような言葉にジーンと感銘を受けた。
私の腕が虫に刺されたり、怪我をしたら困るだなんて……。
拓真は悪魔とか死神とか嫌な奴だなって思ってたけど、優しい面も持ち合わせているんだ。
へぇ、ちょっとだけ見直した。
これが、鞭の後の飴。
ツンの後のデレは、まるでとろける蜂蜜のように甘味のパンチが効いている。
女の子扱いしてもらった後は、しおらしい女を演じた方がいいのかなぁ……、なんてね。
和葉は思いやりのひと言に気持ちが揺らぐと、さっきまで毒を吐いていたはずの唇は、素直な女心を語る唇に変身する。
「意外と優しいんだね」
「……まぁな。(コイツの場合、怪我した瞬間、大袈裟に騒いで俺に一生責任取れとか言い兼ねないからな)」
お人形さんのように頬を赤く染める単純な和葉に。
嫌な予感に包まれ額に冷や汗を滲ませる拓真。
お互いそれぞれ抱える想いは、若干温度差が生じている。
それから、二人はそれぞれの持ち場につき、互いの顔が見えないほど遠い距離から黙々と作業を始めた。
和葉にとって農作業は初体験。
見た事はあっても、実践した事はない。
大地の香りに包まれながらの地味な作業。
ブチっと草をむしる不慣れな指の感触は、軍手越しに伝わってくる。
広大な畑にポツンと離れて身を置く二人は、当然お互い無言。
むしった雑草はビニール袋へ。
腰を上げる度に袋の中の重量は増えている。
まだ夏の暑さが残る日差しを浴びながら、こんな単調な作業が永遠と続いていく。
告白が失敗してから一度チャンスをやると言われて素直について来てみれば、彼の自宅で変な作業着に着替えさせられて、広大な畑で草をむしらされている。
その上、この場所からだと奴の姿が見えないし、単なる世間話すら出来ない。
大声を出さないと相手まで声が届かない。
なにコレ?
劇的につまんない。
実質一人ぼっちじゃん。
全然デートみたいなもんじゃないじゃん。
男が放っておくはずのないモテ女の私は、一体ここで何をしているんだろう……。
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