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第二章
46.負の三拍子
しおりを挟むそれから玄関に移動し、彼が用意した黒い長靴を履かされると、家のすぐ目の前にある畑に連れて行かれた。
奴は完全に私をアブナイ人だとインプットしてしまったのか、畑に出るまで一切口を利いてくれなかった。
「さ、開始するか」
「……何を?」
「今から二人でこの畑のエリアの雑草を全部抜く。タイムリミットは日没までだ。いいな」
奴は年上の私に向かって再び偉そうな態度をとり、命令口調で畑の方に指を差した。
モンペを穿かされた時点で、何となく嫌な予感がしてたけど、それがまさか現実になるとは。
目の前に広がるのは、そんじょそこらの家庭菜園レベルとは違うだだっ広い畑。
雑草を抜けと指示されたエリアだけでも、学校の体育館くらいの面積はある。
告白失敗直後に一度チャンスをやると言っていたけど、学校を離れる前から何も伝えられぬままいきなり畑に連れて来られた挙句に今から農作業をやれと?
わざわざこんな地味な作業をしてまでアピールしなくても、簡単に男が落とせるこのLOVE HUNTERである私に?
やめてよ。
ウケるんだけど。
冗談はその馬鹿デカイ身長と、無駄にツンデレな性格だけにしてよ。
理解不能な試練なんて無理。
私が雑草抜きなんてやる訳ないじゃん。
「はぁ?! 嫌! 無理! 拓真が一人でやれば?」
試練に立ち向かう気など更々ない和葉は、膨れ顔でプイと横を向き、負の三拍子の言葉を口にした。
畑仕事なんてやったら、自慢のネイルが土で汚れちゃう。
しかも、畑の中にはクネクネした変な虫が、無数にうじゃうじゃいそうだし、しゃがんだり立ったり、その辺の草をつまんでポイしたり、夕方とはいえ炎天下の中の作業は日焼けしそうだし、地味に疲れそうだし。
農業とか、土いじりの経験は全くないし。
しかし、隣で一切無反応な拓真に再び目を向けてみると、トレーニングウェアのズボンのポケットに丁寧に畳んで入れていたビニール袋を取り出し、袋に空気を入れて中を開いている。
奴は私の意見なんて全く無視。
それどころか、着々と草むしり準備を始めている。
残念な事に、極悪非道な人間性が伺えた瞬間だった。
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