39 / 49
38.会う口実
しおりを挟む――新年を迎えた。
年が明けてから一番に『あけましておめでとう』というメッセージを送ってきてくれたのは郁哉先輩だった。
去年まで星河が一番のりだったはずなのに、ケンカをしてからその歴史は崩れた。
コンテストのあの日以降、星河とは一度も喋っていない。
何度もスマホからメッセージを送ったけど、既読無視。その上、バイトもないから二人で会う機会もグッと減った。
近所で会ったり、学校で一人の隙を狙って声をかけても意図的に避けられているから話せない。
星河がぼたんのキス現場を目撃したのはショックだったけど、それ以上にショックなのは口すらきいてくれないいま。
急に心変わりしてしまった理由さえわかれば解決の糸口がつかめるのかな。
理由だけでもわかればと思い、口実を作って家にお邪魔させてもらった。
小さい頃は頻繁に行き来していた部屋すら今は懐かしく思う。
しかし、私が部屋で待っていたせいか、帰宅したばかりの彼はあからさまに嫌な顔をする。部屋に荷物を置くと背中を向けたまま言った。
「……何しに来たの?」
「あっ、明日……英語の小テストでしょ。実は学校に教科書を忘れちゃったから書き写させて欲しくて……」
「桐ヶ谷に教科書の写真撮って送ってもらえばいいじゃん」
こんな会話さえ刺々しい。
以前ケンカした時はオーナーが映画のチケットをそれぞれに渡して話し合いの場を設けてくれたけど、いまはそのチャンスすらない。
でも、自分の問題を人に預けるのは違うと思うし、ちゃんと自分の考えを伝えたい。
「だって、波瑠はバイトがあって忙しいし、星河は隣の家だから」
「家が隣なら何でも許されると思ってんの?」
「違うよ! 実は、教科書を忘れたと言ったのは会うための口実。今日は話をしに来たんだよ」
私は今にも泣きそうな顔で星河の腕を掴んで体を振り向かせると、ここでようやく目を合わせてくれた。
しかし、氷のように冷たい眼差しは、一週間前と同一人物に思えないほど。
「俺と一緒にいると都合が悪くなるよ。先日はぼたんのことを意識して距離を取ろうって提案してきたけど、今度はそっちが郁哉先輩に誤解されるかもしれないし」
「先輩は星河が幼なじみだって知ってるから大丈夫。今さら誤解なんてしないよ」
「幼なじみだったら何でも許されると思ってんの?」
「えっ」
ドンッッッ!!
星河は突然私の肩を掴むと、180度回転させて体を扉に叩きつけた。
その瞬間、私の頭の中はリセットされる。
「甘く考え過ぎてんじゃない? 男ってさ、建前では強がってても結構嫉妬深いから」
「せ……先輩も一緒とは限らないし」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「どっ、どうしてと言われても……」
私は何を守ろうとしているのかわからない。ただ、星河との関係を必死に繋ぎ止めようとしているのは確かだ。
しかも、いまはそれを見抜かれたような気がしてならない。
「お前の考えてる幼なじみって、何?」
「……それは」
「都合のいい時は傍にいて、都合が悪くなったらバイバイ? 俺は便利屋じゃないし、彼女もいる。お前の気分一つで振り回されるのはもうゴリゴリなんだよ」
「違う! 私の気分で振り回す気なんてない。ただ、今まで通り幼なじみとして支え合っていきたいと言うか……」
「そんなに都合のいい相手なんていると思う? 俺が幼なじみに限界感じてんのに、お前の理想を一方的に押しつけるなよ」
星河は怒鳴り口調でそういうと、フイっと背中を向けた。
「幼なじみに限界? 私が理想を一方的に押し付けてる? ……私のことをそんな風に思ってるなんてちっとも気づかなかった」
「だろうな。お前は人の気持ちも考えないまま心ん中にズカズカと入り込んできて、都合が悪くなったら蚊帳の外に追いやって。俺には俺の人生があるからお前の都合に合わせるのはもう沢山だよ」
「ちょっと待って! 誤解してる。星河のことを蚊帳の外に追いやった記憶が一度もない」
「そこが嫌だと言ってんだよ。もう帰れ」
「嫌だ……。ちゃんと話し合おう。さっきから言ってる意味がわかんな……」
「帰れっ!!」
私は背中越しに怒鳴られると、真っ白な頭のまま荷物を持って部屋を飛び出した。
自分の家に戻って部屋に飛び込むと、ベッドの布団の中に包まった。
関係が悪化してしまった原因がわからない。それに、幼なじみに限界って……。
今まで仲良くやってきた分、急にそんなことを言われても気持ちが追いつかないよ。
確かに星河の言う通り、私は間違っている。
自分が困った時に真っ先に頼ろうとしたり、コンテストの結果をいち早く知ろうとしたり、連絡がないからって一方的に怒ったり。
それに、ぼたんとのキス現場を目撃しただけで不機嫌になるし。
本当に大切な友達なら恋を応援するのが普通なのに、私は知り合った頃からの延長線上のまま接している。
彼女ができた時点でもっと距離をおかなきゃいけなかった。
しかも、最近はコンテストのお祝いグッズまで買ってたし。
傍から見れば最低な女。恋人がいる人に幼なじみという武器を盾にして傍にいようとしているから……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる