キミとの恋がドラマチックなんて聞いてない!

風音

文字の大きさ
上 下
19 / 49

18.心の距離

しおりを挟む


「オーナー、お先に失礼します」

「じゃあ、叔父さん。またあさって」

「二人ともお疲れ様~」


 ――私と星河はバイトを終えると、扉を開けて二人一緒に外へ向かった。
 店は繁華街から一本奥の路地にあることもあり、二十二時台は人が点々としている。
 
 今日もいつも通り肩を並べて帰宅。家が隣だから星河のケーキ作りがない日は一緒に帰っている。
 ……でも、ぼたんの事を考えていたら、最近これがまずいかなと思うようになっていた。


「あのさ……、私たち少し距離をとった方がいいと思わない?」


 幼なじみ期間が長いから言いづらかったけど、多分この提案は間違っていない。先日のケガの件でクラスメイトに誤解されたり、ぼたんを傷つけてしまうのは嫌だ。もし自分がぼたんの立場だったら、他の女と歩く所なんて見たくないから。
 すると、彼は進めている足を止めた。


「……それ、どういう意味?」


 星河の方に振り返ると、不機嫌な眼差しをしている。
 それを見た途端、少し後ろめたい気持ちになった。


「星河にはぼたんがいるのに、私をおんぶして保健室に連れて行った時みたいに誤解を与えるような真似をしちゃいけないなと思って」

「……もしかして、ぼたんと何かあったの?」

「ううん、何もない。ただ、小さなことで間違った噂が流れたり、こうやって二人で歩いてるところを誰かに目撃されたら色んな人に迷惑をかけちゃうかなと思って」


 最近、色々思うようになった。それは、日を追う毎に星河がぼたんの彼氏と認識するようになってきたから。
 二人が付き合う前はそこまで考えてなかったけど、常識的に考えると人の彼氏と二人きりで歩くのは間違っている。
 ところが、星河は暗闇の隙間からムッとした口調で言った。


「別に俺は迷惑だと思ってないし、お前がケガをした時は正しい判断をしたと思ってる」

「星河はそうかもしれないけど、ぼたんは嫌だったんじゃないかな。私が彼女の立場だったら、他の女をおんぶして保健室に連れて行ったら嫌だよ」

「じゃあ、お前の叫び声を聞いても無視しろって言うの?」

「……それでいい。周りに人がいたからきっと何とかなっただろうし」


 可愛げがない言い方だけど、あの時は星河に頼る必要もなかった。
 まさか私の声を聞いて教室に戻ってくると思わなかったし、ぼたんの前でおんぶをするなんて想定外だったから。


「よくないだろ。だってお前がケガをしたら心配す……」
「そーゆー時は無視していいよ」

「えっ」

「私たちは、たかが幼なじみなんだし……」


 星河の言葉を遮断するようにそう言うと、彼は口を閉ざした。
 少し強めに突っぱねてしまったけど、このまま頼り続けてたらいつまで経っても星河に甘えてしまう。ただの幼なじみなのに、彼女を置いてけぼりにするのは間違ってる。
 だから、ここで境界線を引いた。

 そのせいもあって、私たちは一気に険悪な雰囲気に。でも、これは想定内。言うべきことはちゃんと言わないと、彼の為にならない。


「…………なに、それ。たかが幼なじみって」

「だって、そうじゃん。星河は彼女がいるんだから、そっちを優先するのが彼氏の当たり前でしょ」

「それはそうだけど、”たかが”はないだろ。俺はお前が幼なじみでいることを誇りに思ってるのに」


 星河の顔色がみるみるうちに変わってき、口調が強くなっていく。
 でも、私自身も人から責められるのは辛い。
 

「誇りに思ってくれるのは嬉しいけど、ぼたんの気持ちを優先しないと」

「なにそれ。俺がいまぼたんの事を何も考えてないみたいじゃん」

「そうは言ってない! ただ、お互い立場を弁えていこうという話をしてるの」

「どうして立場を弁えなきゃいけないの? お前からしたら俺の価値って何なの?」


 星河は呆れたようにそう言うと、背中を向けてぐんぐんと前に足を進めた。
 しかし、このままではケンカになると思って星河の後を追った。


「ねぇ……、どうして怒ってるの?」

「お前は一体何を守ろうとしてんの。意味わかんねーし」

「みんなのことをちゃんと考えてるんだよ。ただ、今のままだと嫌な気持ちになる人が出てきちゃうから、少し距離をおかなきゃいけないって話をしてるの」


 星河の腕を引きながらそう言って目を見つめた。
 すると、今まで見たこともないくらい悲しい瞳をしている。


「無理…………だと言ったら?」

「えっ」

「話になんない。……もー帰るわ」


 彼はため息交じりでそう言うと、話を遮断するように背中を向けた。 
 伝えたいことは伝えなきゃいけないけど、ケンカする気なんて更々ない。
 しかも、どうして不機嫌になるのかわからない。


「星河!」

「ついて来んな」

「まだ話は終わってないっ!」

「そんな話なら続ける価値もねーよ」


 星河の背中は怒っていた。私の話を一切受け入れられないくらいに。
 私はこの提案が間違ってるとは思ってない。だから、一歩も引かなかった。
 いま守るべきものをはっきりさせないと、またあの日のように人から責められると思ってしまったから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

処理中です...