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最終章

119.ご褒美

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  颯斗の自宅に数日ぶりに上がった沙耶香。
玄関を上がってから一歩一歩奥に進む。


  颯斗の優しさに包まれた一ヶ月間を振り返りながら懐かしい香りを全身に浴びると、思わず幸せの笑みがこぼれた。

  沙耶香は室内で栽培している豆苗の葉っぱを触りながら言った。



「お父様は沙耶香達を許してくれたんでしょうか」

「どうかな。でも、経営学を学べって事は、少しは許す気があるのかもしれないな」


「運命って本当にあるんですね。私達親子は颯斗さんの家族に助けられていたなんて」



  颯斗は豆苗の葉を触っている左薬指の光るものに目が止まった。
  その光るものとは、二人の気持ちが一つに繋がったあの日に颯斗がプレゼントしたもの。



「サヤ、そのケーブルタイ……」



  沙耶香は右手でケーブルタイを触りながら口元を微笑ませた。



「これですか?  颯斗さんがくれたものは全て宝物です。だから、あの日から肌身離さず身に着けてました」



  颯斗は出会ったあの日から一寸のブレもしない想いが伝えられると、テレビ台の引き出しからある物を取り出した。



「サヤ、こっちに来て」

「何ですか?」



  沙耶香は呼ばれた通りちゃぶ台前に座ると、颯斗は手元の小さな箱を開けて言った。



「その指輪もいいけど、サヤにはこっちの方が似合ってるよ」



  颯斗は沙耶香の結婚式の直前にジュエリーショップで購入した指輪を沙耶香へと差し出す。
  沙耶香は指輪を取り出すと、リングの中の刻印を確認した。



「ふふっ、名前はサヤ……じゃないですよ。沙耶香です」

「もう知ってるよ、黒崎沙耶香さん」


「刻印の日付は颯斗さんが契約書を持って来てくれた日ですか?」

「沙耶香が『契約します』と言ってくれたあの日が俺達の交際記念日だよ」


「こんな高価な物……。無駄遣いじゃないんですか……」

「無駄遣いじゃない。汗水垂らして貯めたお金は一番大切な時に使うと決めているんだ」



  颯斗はそう言うと、瞳にたっぷり涙が浮かび始めている沙耶香の頬に約束していたご褒美のキスをした。
  沙耶香は幸せが溢れるばかりに涙が頬を伝う。



「今度は本物の彼氏だから沙耶香からのお願いは聞かないよ。……それと、『恋愛100選』の本が部屋に置きっぱなしだったけど」

「えっ!  やだっ。結婚式の日に焦って家を出たから忘れちゃったんだ……」


「ふぅ~ん。わざと忘れて行ったの?  それとも……」

「颯斗さーんっ!!」

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