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最終章
110.沙耶香の本音
しおりを挟む動画が終了すると、オーナーはテーブルに両肘をついて手を組むと話を始めた。
「田所ホールディングスは今や大手外食チェーンとして多大なる功績をあげてきたが、元を辿れば先代が築いてきた一件の居酒屋が起点だった。私は会長職の傍ら先代が残してくれた居酒屋で今でもオーナーとして働いている。
そこで沙耶香ちゃんと出会ったのは、およそ一ヶ月前。今回の騒ぎの発端となった従業員の颯斗くんのツレとして知り合った。
顔を見た瞬間、すぐに瞬の婚約者と気付いたよ。私は身元を伏せながら沙耶香ちゃんの話に耳を傾けた。すると、命の恩人の颯斗くんと一ヶ月間の思い出を作りたいと。一ヶ月後には地獄に落ちて行くとも言っていた。
余程の事情がない限り地獄という言葉を口にしないだろう。私はその真相を探る為に沙耶香ちゃんと瞬の身辺調査に踏み切った。
沙耶香ちゃんは家族の反対を押し切って一ヶ月間颯斗くんと一緒に暮らしていた。契約関係として……。そうだろ、沙耶香ちゃん」
沙耶香「おっしゃる通り。私は好きな人と最後の思い出を作る為に一緒に暮らしていました」
黒崎父「沙耶香! お前は嫁入り前になんて事を!」
沙耶香の父親は頭に血が上って叱りつけるが、オーナーは冷静な目を向ける。
オーナー「黒崎さん、落ち着いて話を聞いて下さい」
黒崎父「はい……」
オーナー「同時に瞬の調査を行なっていたが……。お前は沙耶香ちゃんに暴力を振るうどころか、一体何人の女性と遊び歩いていたんだ」
瞬「そっ……それは! さっ、沙耶香だって他の男と同棲してたから人のこと言えないし」
オーナー「黙りなさい! 自分の事を棚に上げるんじゃない!」
言い訳を始めた瞬にピシャリと怒鳴りつけると、場の空気は一気に張り詰めた。
オーナー「確かにお互い非がある。婚約しているにも拘らず、他の異性に想いを寄せているのだから。しかし、結婚準備の段階から相手の気持ちを粗末にしていたのは、明らかに瞬の方が上回っていた。
でも、悪いのは子供達だけじゃない。利益重視で好きでもない相手と無理矢理縁結びをさせる大人達にも原因があるのではないかな」
黒崎父・田所父「……」
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