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第九章

106.銀色のケーブルタイ

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  俺は自宅から左薬指にはめたままのケーブルタイの存在を思い出して、指から引っこ抜いた。



「サヤ、左手を出して」

「はい……」



  彼女の手をすくうように左手で受け取り、ケーブルタイを薬指にはめた。



「もう一人の問題じゃないよ」

「えっ」


「サヤをチャペルから連れ去った時点で俺の問題にもなった。……でも、後悔してない。サヤを他の男に渡す事と比べたら、どんなに困難が訪れても乗り越えられる」


「颯斗さん……」

「二人で力を合わせていこう。最初は上手くいかない事があると思うけど、きっとトンネルの先に出口があるはず。俺はサヤさえ傍にいてくれれば強くなれるから」



そう……。
サヤが居てくれれば他は何も要らない。

人を好きになるとはそう言うこと。


  結婚はサヤと窪田の二人の問題じゃない事は承知している。
  社会的打撃も、経済的な損害も、今の自分に償いきれる自信はないけど、サヤという一人の女性を愛していく自信は誰よりも負ける気はしない。

  それが俺の最大の武器だから。




だが、その言葉を伝えた次の瞬間……。


キィィ……


  颯斗の背後から甲高く軋む音と共に扉は開かれた。

  二人が同時にハッとした目を向けると、そこには沙耶香の父と両側に並ぶ側近の姿が。
  震え上がっている沙耶香の瞳の中には、怒りに満ちている父親の姿が映っている。



「お父様……」

「お前はなんて事をしてくれたんだ……。田所ホールディングスのご子息との大事な結婚式を台無しにしやがって……」



  強く握られた拳はワナワナと揺れている。
颯斗は焦って姿勢を正して、沙耶香の父親に一礼した。



「あっ、あの……。申し遅れました。俺、鈴木颯斗と……」
「こいつを捕まえろ。絶対に逃すな」

「はいっ!」



  すかさず側近に指令を出した父親は、颯斗の話を聞くどころか耳を貸す気もない。
  側近は颯斗の両脇を抱えてリネン室から引きずり出した。



「ちょ…ちょっと!  離せよ。やめろって……話せばわか…」

「颯斗さんっ!」



  沙耶香は颯斗が廊下の奥へと連れて行く姿を目で追った後、父親をキッと睨みつけて反抗的な態度をとった。



「お父様!  颯斗さんをどこへ連れて行くつもりですか!」

「お前はいつからそんな反抗的な娘になったんだ。そもそも一ヶ月という時間を与えたのが間違いだった。……いいか、お前もついてこい!」



  沙耶香は父親に腕を鷲掴みにされると、嫌気に満ちた表情のまま半分引きずられた状態で廊下へと連れて行かれた。

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